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舞台に立ち、誰もいない観客席を見渡す。
演じるのは第二幕――王子様が、隣国のお姫様に想いを告げる大事な場面。
僕の声は、鳥だ。観客席を駆け抜け、空へと舞い上がるイメージ。気高く、何者にも支配されない、王子の風格を持った鳥――
『――全然感情こもってない!』
先輩の一言が脳裏によみがえり、鳥は翼を失い喉に痞えた。
演劇部で初めて主役を勝ち取り、天にも昇る心地だった。
それが今はどうだ。
自分の演技力のなさに、すっかり打ちのめされている。
これ以上、みんなに迷惑はかけられない。演劇関係者も多く観に来る大切な舞台なのだから。
「……主役、降りよう」
避けてきた言葉を、ついに口にした時だった。
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