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「いやー、まいったわ」
ひざに手をつき、肩で息をしているユウコがまいったというのは公園まで坂道を駆け上がって来たからだけではなかった。
「まさか、稲垣クンより そっち を選ぶとはね」
「そ、、そっち?
い、いいい、一体何のこと?」
あぶら汗をかきながらアミは木屋戸警部の入った紙袋をそっと背中にまわした。
「なんとかの九月っていうブローチのことよ」
「!!!」
11月間近の冷たい夜風が公園を吹き抜ける。
三人は息を殺してユウコの次の言葉を待った。
「安心して、誰にも言わないわ」
「ブ、、ユウコ、知ってたの?」
「ブウコでいいわよ。
言っとくけど、ブウコのリサーチスキルをなめてもらっちゃ困るわよ」
アミの親友ユウコが噂話の達人であることは他の姉弟たちも知ってはいたが、怪盗マウスボーイの正体まで突き止めているなど思いもよらなかった。
「稲垣クンまでぶつけても止められなかったか~」
「ぶ、ぶつけるって?」
2年B組 稲垣シンゴからの手紙は、2-C のとある女子の告白が発端であった。
「ぜ、全部ブウコが仕組んだの!?」
「仕組んだって、、ちょっと背中を押しただけよ。
あとはドミノ倒しっていうか、ピタゴラなんとかみたいな? 」
ユウコが高校生の恋愛模様に手を突っ込んでまで怪盗マウスボーイの邪魔をしたのにはワケがあった。
「あのお宝、ウチのおじいちゃんのものだったの」
「え? 兼持杉男さんの?」
「兼持杉男って人はひいおじいちゃん。会ったことないけどね。
小さいころコレクションの展示会に連れてってもらって、キレイな宝石だなーって思ったのは覚えてる」
ユウコは薄曇りの渋谷の夜空を見上げ少し感傷にひたっているようだった。
「アミが怪盗マウスボーイやってたのは前から知ってたけど、
まさかウチを狙ってくるなんてビックリしたわよ」
アミは目をふせたままユウコの思い出話を聞いていた。
一番の親友の財産を盗んでしまったのだ。
「でさぁ」
しゃがみこんだユウコのいたずらな笑顔がアミの視線の先に割り込んできた。
「怪盗マウスボーイが狙った宝石って、全部「なんとかの何月」って名前でしょ。
《プリンセスの一年》っていうんだよね。
そこまでは調べたんだけど、、、
これってアンタたちとどういう関係があるワケ?」
口をポカンと開いたままなのはアミだけではなかった。
「その辺の裏話を詳しく知りたいのよねー。
引き換えに、今回の件は黙っとく、、ってのはどう?」
ユウコは怪盗三人組に向き直り、ゆっくりと腕組みをして不敵な笑みを浮かべた。
「私にとっては宝石よりも情報が お 宝 な の よ」
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