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体育座りのままじっと天井を見つめているアミを見かねてルミが口を開いた。
「あんた、それ行きなさい」
「えっ?」
「私とヒトシ二人でやるわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
すかさずヒトシが目を丸くして机から立ち上がった。本日二度目だ。
三人チームの怪盗マウスボーイには役割分担がある。
ヒトシの役目は主に事前の情報収集や、犯行を行うためのさまざまな仕込み、つまり普段は裏方の仕事がメインなのだ。
「プランBに変更するわよ」
「じゃあ、強行突破はやめるってこと?」
ボリボリと頭をかきながらヒトシはノートパソコンの画面へ首をのばした。
「そう、派手な動きは抑えて正体を隠しながら脱出よ。
アンタはそっちの方が得意でしょ?」
不測の事態に備えて全員が一通りの手順をマスターしている。ヒトシがアミの代わりを務めるのは可能ではあった。
しかし、身体能力などそれぞれの得意不得意を考えた上で各自の役割が決まっているのだ。アミが抜けた分をそのままヒトシがカバーするのではなく、計画全体を見直すのがミッション成功のカギなのである。
「やっぱり二人じゃ危険だよ。
私も行く」
アミはソファから立ち上がってルミに食い下がった。心の中ではあの手紙は既に燃やした後なのだ。
「ダメ。
そんな手紙もらうなんてチャンス、次にいつあるかわからないでしょ」
「うんうん」
大きくうなずく兄をチラリと睨んだあと、アミはどさっとソファに倒れ込んだ。
怪盗マウスボーイの活動のため、アミは中学・高校とその青春を犠牲にしてきたのだ。そんな妹へのルミの気遣いを理解できる程度には大人なのである。
しかし、《プリンセスの一年》は三人の悲願、そして彼女たちの祖先からの因縁でもあるのだ。
「アミ、明日手に入れるお宝は二つよ。
こっちは二人で全力を尽くすから、
アンタはアンタのお宝をしっかり手に入れて来なさい!」
ポンとアミの背中を叩くその力強さは、明日への不安など微塵も感じさせないものであった。
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