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「そこに誰かいるのか」
この狭い通路で、ふいに攻撃をしかけられたらやっかいです。それならばと、ヨルはこちらから声をかけることに決めたようでした。
光はだんだん、近づいて来ます。
ヨルは目を細めました。
あらわれたのは、少女でした。
手燭を持った少女が、階段の上からこちらを見下ろしていたのです。
ゆったりとした白いドレスが、下から吹き上げる風になびいておりました。
蝋燭のほのかな灯りに照らされた顔には、つくり物めいた美しさがありました。
特に印象的なアッシュグレイの瞳は、精巧にできた氷細工のようにも見えました。
少女は、いきなりあらわれた客におびえる様子もありません。それどころか、口もとに笑みさえ浮かべています。
「ねえ、そんなところに立っていないで、こちらへ来たらいかが」
透きとおった声が誘います。
ヨルが言葉もなく立ち尽くす間、ツバメはひっそりと身を縮めておりました。
「外は冷たかったでしょう。こちらに来ればあたたかいわ。ついていらっしゃい」
くるりと身をひるがえすと、少女は軽やかに石段を上がっていきます。
「お客さまは久しぶり。あなたのことをきいてもいいかしら」
問われて、ようやくヨルは我に返ったようでした。
「ぼくはヨルといいます。旅をして、ひとりここまで来ました。まさか本当に人がいるなんて思わず……雨風を一時、しのがせてはいただけませんか」
「そんなにかしこまることないわ。ええ、もちろん。礼儀正しい客は大歓迎よ。それから……」
「こちらは、礼儀正しいツバメです」
まあ、と少女は笑い声をもらします。
「よろしく、ヨル。ツバメさん。わたしはビビ、城主の娘なの。わけあってここで人を待っている」
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