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Ⅰ
一羽のツバメが、にごった雨つぶを振りはらいながら飛んでいました。
ふいに訪れた大雨は、容赦なく、ツバメを地に落とそうとします。
遠くからひびくのは、低い、おそろげな音。
どうやら、雷が近づいてきたようです。
今日はもう、あまり遠くまで飛べそうにありません。
どこかで羽を休めなくちゃ……。雨をしのげる場所で、思うままにまどろみたい。
ツバメはそう考え、必死になって寝床を探しました。
おや、あれは。
ツバメが見たのは、複雑な形の岩山でした。
それは実際、岩山などではなく、廃墟と化した城でした。
今日の寝ぐらを、あそこに決めよう。
ツバメは少しずつ高度を落とし、ようやっと、羽を落ち着けることができたのでした。
「おや、キミも雨宿りかい」
とまった先から声がして、ツバメはおどろき、飛び上がりました。
「待って待って。おどろかせて悪かった。ぼくもここで、ひと休みさせてもらおうと思ってるんだ。良かったらツバメくんも、一緒に来なさい」
声の主はそう言うと、首をせわしなく傾けるツバメに、ほほ笑みかけます。
「ぼくは旅人のヨル。キミとはご縁ができたようだ」
とても優しい声でした。
こんな優しい声でさえずる生き物を、ツバメは知りません。
「雨が降りしきる間、ともにこの廃城で過ごそうじゃないか。わずかな時間だが、よろしく、可愛らしいツバメくん」
ツバメは旅人の言葉に、小さくうなずきました。
優しい声色の旅人は、きっと、あの憎らしい雨のように、ツバメをいじめたりしないと思ったからです。
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