1/3
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

一羽のツバメが、にごった雨つぶを振りはらいながら飛んでいました。 ふいに訪れた大雨は、容赦(ようしゃ)なく、ツバメを地に落とそうとします。   遠くからひびくのは、低い、おそろげな音。 どうやら、雷が近づいてきたようです。   今日はもう、あまり遠くまで飛べそうにありません。 どこかで羽を休めなくちゃ……。雨をしのげる場所で、思うままにまどろみたい。 ツバメはそう考え、必死になって寝床を探しました。 おや、あれは。 ツバメが見たのは、複雑な形の岩山でした。 それは実際、岩山などではなく、廃墟(はいきょ)と化した城でした。 今日の寝ぐらを、あそこに決めよう。 ツバメは少しずつ高度を落とし、ようやっと、羽を落ち着けることができたのでした。 「おや、キミも雨宿りかい」 とまった先から声がして、ツバメはおどろき、飛び上がりました。 「待って待って。おどろかせて悪かった。ぼくもここで、ひと休みさせてもらおうと思ってるんだ。良かったらツバメくんも、一緒に来なさい」 声の主はそう言うと、首をせわしなく傾けるツバメに、ほほ笑みかけます。 「ぼくは旅人のヨル。キミとはご縁ができたようだ」 とても優しい声でした。 こんな優しい声でさえずる生き物を、ツバメは知りません。 「雨が降りしきる間、ともにこの廃城で過ごそうじゃないか。わずかな時間だが、よろしく、可愛らしいツバメくん」 ツバメは旅人の言葉に、小さくうなずきました。 優しい声色の旅人は、きっと、あの憎らしい雨のように、ツバメをいじめたりしないと思ったからです。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!