16人が本棚に入れています
本棚に追加
考察
「・・・・と言う訳だ。あ、そうそう、ちゃんと村のスケッチもしたぞ」
叶人は鼻の穴を膨らませ得意げに言うと、ポケットから手帳を取り出しパラパラとめくると
「ほら」
と言って見せた。
「本当二つの村そっくりなんだよ」
「何これ。下手くそな絵ね。この二つの盛り上がりは何よ」
「ん?ああそれは双子山」
「双子山⁉︎画力もここまで無いとある意味すごいわね。それにさ、片庫裡村ぐらい漢字で書けないの?」
「ハハハ。漢字忘れちゃって」
優奈は呆れ顔で首を振った。
「今の話・・本当か?」
「ん?ああ本当だ。どうした?怖い顔して」
「お前達キヨ婆を見たよな?」
「あ?ああ見たよ」
「そのキヨ婆はどんな姿をしてた?」
「どんな姿って・・中年の女性で・・大体40~50歳位の人だったな。ソレが目つきの悪い女でさ。めっちゃ怖かったわ~」
その時の事を思い出したのか、叶人は大袈裟に体を震わせた。
「そのキヨ婆って、山内の成人の儀の時提灯持ってた人だよな?」
「ああそうだ」
「もうここからおかしいんだ。キヨ婆の姿を俺達三人それぞれが全く別人に見ている。優菜は若い女性。叶人は中年女性。俺は老婆っていう風に」
「マジかよ・・あ、だから優菜はあの時変なこと言ってたんだ。ほら、キヨ婆と廊下で話した後、あのおばさんの事「綺麗な人」って言ってただろ」
「うん。だって本当に綺麗な人だったからね」
「俺にはそうは見えなかったけどな。目つきの鋭い中年のおばさんって感じで。漣はそれ以上に見えたんだろ?」
「ああ。80はとっくに超えているように見えた」
「これってどういう事なの?」
「簡単だよ。俺達が見たキヨ婆は生きた人間じゃないって事だ。さっき叶人が片庫裡村で会ったって言う老婆はそのキヨ婆の可能性が高い」
二人は息を呑んだ。
怪異館では、日本ならず世界の怪異を調べたりする。専ら動画等のネット検索が主で、わざわざ現地に行くなどという事はしない。画面上でのポルターガイストや幽霊らしきものが映っている画像は観た事はあっても、生きた人間の様に動いている幽霊を見た事等勿論ない。ましてや俺達はその幽霊と会話をしたのだ。
二人がその事について理解するのに時間がかかるのは仕方がない事だろう。俺自身も未だ信じられない。
暫くの沈黙の後、叶人が口を開いた。
「俺達・・幽霊と喋ったって事か・・」
「ああ」
「そんな事って・・」
二人の声が震えている。恐怖から来るものなのか、それとも興奮から来るものなのかは分からない。
「ゆ、幽霊だろうと何だろうと、とにかく今回の件を解決しないと・・そうでしょ?」
「あ、ああそうだよな!」
無理に取り繕っているのが見え見えだが、二人にこんな事で委縮してもらっては困る俺は本題に話を戻した。
「最初から整理してみないか?」
「分かった」
「俺達が、この成人の儀がおかしいと思い始めたのはあの祠の中にある頭が二つあるお地蔵様を見てからだ」
「ああそうだな」
「正太郎さんの話では、朝比奈村と片庫裡村の人達が妙の魂を鎮めるために祠を建てたと言っていた。ここで疑問一。魂を鎮めるために建てた祠の中に、あんなグロテスクなお地蔵様をわざわざ作り祀るだろうかという事」
「そうよね。ここの祭壇に祀られている首だってそうよ」
「首ぃ⁈」
「叶人は見てないの?」
「見てない。気が付いたらお前らに起こされてた」
「話を続けるぞ。次に、成人の儀当日の山内のあのウエディングドレス姿だ。晴れ着ではなく何故ウエディングドレスを着るのか。これには俺なりの解釈がある」
「何だ?」
「正太郎さんの話では、二十歳まで本当の自分。二十歳からは建前の自分になると言っていた。そう考えると、二十歳を境に今までの人格を変えるのであればそれまでの人格は結婚は出来ないという事になる」
「つまり、その人格が成しえない結婚を再現したって言う事?」
「うん。成人の儀の時、あの祠に行って何をしていたのかは分からないけどもう一人の自分に・・建前の自分に変わったんだ」
「だから忍ちゃんがあんな風になったんだな。でも待てよ。建前って言う事は、本当の自分が偽ってるんだろ?って事は、いつでも本当の自分に戻れるじゃん」
「うん。だから村の女の人は「出来れば戻りたい」って言ったんだよ。本当の自分の方がいいんだろうな。でもソレが出来ない。何故なら朝比奈村の掟だからだ」
「また掟かよ~」
叶人は大袈裟に頭を垂れる。
「そしてこの祭壇だ。この祭壇はお妙さんの呪いを封じ込めている場所と正太郎さんは言った。叶人は見てないから分からないかもしれないけど、この祭壇には頭から顔にかけて二つに割れた首が祀られている」
「はぁ⁈キモッ!」
「次に「おちご」とはどう言う意味なのか」
「おちご?」
優菜は顔をクシャりとして言った。
「あっ、俺その言葉片庫裡村で聞いた。あの小屋の前を通りかかった時に「おちご」って聞こえたんだ」
「おちご・・乳飲み子って言う言葉が近い感じがするけど」
「実は俺がその言葉を初めて聞いたのは、山内家に来た初日なんだ。でもその言葉を言った人物の姿はなかった。次に聞いたのは・・と言うか言ったのは山内本人だった」
「忍が?もしかして正太郎さんの所で話を聞いていた時?」
「そう。俺に向かって口だけ動かして言ったんだ」
「う~ん。なん何だ?おちごって」
叶人は唸り声をあげ腕を組み頭をひねり出した。
「お・・ち・・ご・・おちご・・」
優菜は短い言葉を嚙みしめるように繰り返し言いながら、どう言う意味なのか考えている。
「ん?」
頭をひねっていた叶人が勢いよく顔をあげる。
「何?分かったの?」
優菜は期待を込め叶人を見る。
「いや・・なんか・・」
叶人は、犬のように鼻をひくひくとさせ始めた。
最初のコメントを投稿しよう!