運命

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運命

山内の様子にすっかり怖気づいた叶人は 「何かヤバくね・・・」 と、頼りない声を出し怯えた目で俺達を見る。 優菜は首がもげる程何度も頷き、俺は黙り込んだ。 どの位その場にいたのか分からないが、あれだけ激しく振っていた雨がいつの間にかやんでいる。         それから誰ともなく動き出し、山内の実家に戻るまで誰も口を開かなかった。恐らく、山内の様子にそれぞれが色々な事を考えているのだと思う。 普段の山内は、大人しく気を使いすぎる程周りに気配りができる子だ。優菜の自慢話が出ても嫌な顔一つせず話を聞き、控えめで今の時代には珍しく男をたてるタイプ。確かによく笑うと思う。でもそれは、コロコロと可愛らしい笑いだったはず。笑うと右側の八重歯が見えて俺はそれが好きだった。なのに・・・ 色々と考えている間にいつの間にか玄関の前に着いていた。 叶人が、中の様子を伺いながらそっと玄関を開ける。カラカラと小気味いい音が鳴る。 中を覗くと、丁度カネさんがお盆を手にこちらに歩いて来るのが見えた。 「あら~皆さんお出かけだったんですけ?」 「え・・・ええ・・」 「忍さんは無事に成人の儀が終わって、着替えてますけ」 笑顔でそう言うといそいそと別の部屋へと入った。 「終わったってよ」 叶人は俺達二人の顔を交互に見ながら言った。 「聞いてたわよ」 「・・・・・・・」 「どうする?」 「どうするって・・ねぇ」 優菜が俺の方を見る。 「・・・取り敢えず部屋に戻ろう。着替え終わった山内が来るだろうから」 そう言った途端二人は意味ありげに俺からスッと視線をずらした。 やはりあの時見た山内の異常さがまだ脳裏にこびりついているようだ。 俺達は部屋に戻り濡れて汚れた服を着替え、今から来るであろう山内を待った。 途中カネさんが部屋に来て、淹れてくれたお茶を飲む。熱いお茶が不安と動揺と混乱が入り混じった俺の心を少しだけほぐしてくれた。 てっきり山内が来るものだと思っていたが、先に部屋に入って来たのは山内の父親だった。 昨日は紋付袴を着ていたが、今は上下スウェットのラフな格好をしている。目つきの鋭さは変わらないが、ラフな格好と満面の笑みを浮かべているお陰で好々爺然とした雰囲気を醸し出していた。 「いや~待たせてしまってすまないけ」 そう言いながら俺達の前に胡坐をかき座る。 「・・いえ」 「成人の儀は滞りなく終わったけ」 余程嬉しいのか、顔から笑みがこぼれ落ちそうだ。 「それは・・良かったです」 叶人はどう言っていいか分からない様子で無難にそう返した。 「ただね・・・」 父親の顔から笑みがスッと消え、鋭い目を俺達に向ける。 「ただ・・君達には悪いが、忍はもう大学へは行かないけ」 「は?」「え?」「へ?」 突然の事に俺達三人は同時におかしな声で返事をした。 「成人の儀が終わると花嫁修業に入るけ」 「花嫁修業?」 「この朝比奈村の掟け。この村の者は皆それを受け継ぎやってきたけ」 「で、でも、花嫁修業なんて料理とかそんな(たぐい)の事ですよね?それならわざわざ大学を辞めて修行しなくても出来るんじゃないですか?」 優菜がもっともな事を言った。 「それだけならいいけ」 「他になにか?」 「・・・・一から全てを変えて行かなくてはいけないけ」      「変える?・・・一体何を変えるんですか?炊事洗濯の事なら忍さんはとても上手だって聞いてますよ?花嫁修業なんてしなくても十分だと思います。第一忍さんが行きたいと願って入った大学を、本人の意思を無視して辞めさせるなんて事は流石に・・・」 俺は少々ムキになっていた。 「本人の意思はないけ!」 俺の話を強く遮るように山内の父親は強く言い放った。 「・・・・・」 この部屋に入って来た人物とは別人のように冷たい視線を俺達に向けた父親は 「君達には悪いが、忍は大学へは戻らないけ。これは変えようのないけ・・・・折角来てくれたんだ、何もない所だけどゆっくりしていくといいけ」 最後はニコリと笑うと父親は部屋を出て行った。       
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