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別人?
父親がいなくなった部屋に沈黙が流れる。
叶人も優菜も苦虫を噛み潰したような顔をしている。先程の父親の言葉を理解する事が出来ないのだろう。それは俺も同じだった。もしかしたら俺は二人以上に大きな苦虫を噛み潰した顔になっていると思う。
「・・・これってアリ?」
一番最初に口火を切ったのは優菜だった。目を大きく見開き俺達を交互に見て聞く。
「いや・・・ないだろ普通」
「だよね。だってさ、忍は凄く楽しそうに大学に来てるんだよ?なのに村の掟だかなんだかは知らないけど、そんな時代錯誤な事あり得ないよね?」
「うん。俺もあり得ないと思う。第一、忍ちゃんはどうなんだ?納得してるのか?」
「納得してる訳ないだろう!」
俺は大きな声で言ってしまった。
今まで黙り込んでいた俺が突然大きな声を出したので、二人とも体をびくりとさせ驚いた様に俺を見る。
「・・ごめん・・・でも、こんな事いい訳がない。・・・いい訳がないんだ」
「・・・そうね。あのさ、忍にちゃんと話を聞いてみない?あの子ってさ、控えめな子って言えば聞こえはいいんだけど、自分の考え言わないで何でも相手に合わせちゃうところがあるじゃない?だから、村の掟だなんて言われて自分の本当の気持ちを言えないでいるのかもしれない」
「そうだな。もう儀式は終わったんだから聞けるだろ。な?」
叶人は優しく俺に同意を求めてきた。その目は少し哀れみを含んだような目をしている。
「・・・ああ」
確かに山内の気持ちを聞きたい所だが、正直怖い。山内の事だから「この村の掟だからしょうがないよ」と言いかねないからだ。そう本人が言い張ってしまえば俺達にはどうすることも出来ない。例え言わないにしても、昔から行われてきた決まりを俺達みたいな余所者が変える事等不可能に近い。でも・・
「じゃ、忍の所に行こうよ」
そう言って優菜が立ち上がった時だ、突然襖が開きそこに山内が立っていた。
純白のウエディングドレスではなく、真っ赤なシャツに白いスラックスという出で立ちの山内は
「なんだ、こんな所にいたんだ」
と言うと屈託のない笑顔で部屋に入って来た。
「無事に儀式が終わって良かったよ!心の準備は出来ていたつもりなんだけどやっぱりいざとなると色々考えちゃうよね」
山内は俺達の側に来て胡坐をかいて座る。
「さっき、お手伝いさんの人が言ってたんだけどさ。今日も凄いご馳走らしいよ?楽しみだよね~!それよりさ、ここって何もないから暇でしょう。兄貴に車借りて街に出ようか?街に出れば多少は暇つぶしになると思うんだけど。って言うか、今は何が面白いの?」
山内は俺達の反応などお構いなしに楽しそうに一気に喋る。
「・・・し、忍ちゃん?」
「ん?何?」
「あ・・・成人の儀は終わったんでしょ?」
「うん終わったよ」
「どうだった?その・・雨の中で大変だったでしょ?」
俺達が黙って後をつけ見た事はなるべく伏せた状態で、叶人は恐る恐る聞いた。
「ああ、大変だったけどどうって事なかったよ。無事完了」
そう言うと山内は勢いよくVサインを出した。
「・・・そ、そうなんだ。良かったね」
無事完了と言われても俺達三人の間には微妙な空気が流れていた。
何故なら、今目の前にいる山内は俺達が知っている山内ではなかったからだ。ナチュラルなメイクをしていた顔も派手なメイクになり、淡い色の服を好んできていたのも原色系の派手色の服を身に付けている。第一胡坐などかいている所なんて見た事がない。それに喋り方にしてもそうだ。穏やかに喋っていたのに対し、息する間もなく一気にまくしたてるように話す。
(まるで別人みたいだ)
「あのさ忍・・・」
「何?」
「さっき忍のお父さんがここに来た時に聞いたんだけど・・・忍、大学辞めるの?」
「ああ、その事?うん辞めるよ」
「・・・本当に?」
「うん」
山内は当然の如く頷いた。
「・・・そう」
「あっそうだ!お昼は外で食べない?兄貴に車貸してって言って来るから」
山内はそう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
父親の時とは違う何とも言えない沈黙が流れる。色々とあり過ぎて何から話していいのか分からない。
「・・あれって・・・本当に忍ちゃんか?」
叶人が信じられないという表情を俺達に向け言った。
「うん・・・私もそう思った。だって見た目からして違うじゃない?今までの忍はあんな服やメイクしなかったし」
「だよなぁ。何て言うか・・見た目は忍ちゃんなんだけど、中身が違うって言うか・・・」
「そう!そうなんだよ!」
「な、なんだよいきなり」
突然大声を出した俺を見て叶人は驚いた。
「お前の言う通りなんだよ。見た目は山内なんだけど中身が違う。それってさ、ここに来る前に山内が言ってた近所のお姉さんと同じなんだよ!」
「ああ・・確かにな」
「だろ?その近所のお姉さんは成人の儀をやった後人が変わったようだったって山内は言ってた。山内も今日成人の儀をやった・・山内もそのお姉さんと同じように人が変わったようになった」
「・・・という事は、成人の儀が原因って事か?」
俺は黙ってうなずく。
「そうね。それしか考えられないわね。さっき忍が言ったの聞いた?「今何が流行ってるの?」だって。そんな事普通聞かなくない?まるで初めて世の中に出るみたいじゃない」
「確かに・・それにさ、今までカネさんって呼んでたのに「お手伝いさん」って言ってたしな」
「そうそう」
俺は何度も頷き
「まだ確証はないけど成人の儀で山内に何かが起こったんだ。あの祠で・・・でも具体的に何が起きたのかは分からない。でも何かが起きたからこそああなった」
「うん。俺もそう思う」
叶人も優菜も頷く。
「俺達で調べてみないか?成人の儀というものを。そして山内を元の山内に戻す」
「俺達で?」
叶人と優菜は互いに顔を見合わせるが、すぐに「OK」と言って悪戯っ子のようにニカッと笑った。
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