令和四年 秋 怪異館

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令和四年 秋 怪異館

「あははははは!!!」 突然、叶人が立ち上がり大声で笑いだした。 「な?何?!」 「気でも狂ったか?叶人」 「遂にイッちゃったわね」 俺達三人はそれぞれにそんな事を言いながら、笑い続ける叶人を見た。 「決まった!!今度のハッピーマンデーの三日間は、俺が選りすぐりに選んだ心スポ巡りをやる事にした!」 叶人は、怪訝そうに自分の顔を見ている皆の顔を見渡しながら宣言するように言った。 2000年に制定されたハッピーマンデー法に基づき、第2月曜日を休日とした連休がある。 暑い夏がようやく去りつつある10月。この良い気候と連休を逃さんばかりに叶人は、自分が兼ねてから温めていたプランを突然発表したのだ。 「おいおい、勝手に決めるなよ」 手に持っていた缶コーヒーを机に置き、俺は苦笑しながら言った。 「勝手も何も、俺が決めなきゃ誰が決める?いつものようにネット上での検索や無駄話だけで終わるか?そんなの勿体ないだろう?」 「・・・・・・」 確かに叶人の言う通りだった。俺達が所属する「怪異館」は僅か四人だけという何とも心もとないサークルである。(サークルと言っているが、大学公認ではない。勝手に怪異好きが集まっているだけなのだ)(やかた)を名乗ってはいるが質素な極小のサークル。それでも俺自身なんとか精力的に活動しいずれ大きくしていければと思っているのだが、これが中々上手くいかない。何人かが怪異館に興味を示し来てくれた事もあったが、皆そそくさと出て行ってしまう。それもこれも四人の内、個性の強いこの二人のせいだと俺は思っている。 その内の一人、橋本叶人(はしもとかなと)は、俺と同じ大学二年生。好奇心旺盛で自信家。オカルト全般を愛し信じ切っているような男。目が悪い訳でもないのに小さな丸い眼鏡を鼻の上にチョコンと乗せ博識な雰囲気を出している。オカルトの中でも特に好きなのは心霊スポット。いずれ全国の心霊スポットを行脚するんだと息巻いている。 そして二人目、加古川優菜(かこがわゆうな)同じく大学二年生。私生活の事はあまり話さないので分からないが、自分はお嬢様だと勘違いしている節がある。自分一人で思い込むだけならまだいいのだが、何かと周りを巻き込む。見栄っ張りの負けん気が強いだけなのかもしれないが、見ていてこちらが恥ずかしくなってくるのでやめて欲しい。常に派手な化粧をほどこし高級ブランドの服を身につけている。今はすっかり慣れたものだが、最初は何かと衝突も多かった。オカルトに興味はありそうだが、怪異や心霊の類がそれほど好きなようには見えない。何故このサークルに入って来たのか謎である。 この個性の強い二人の他には、山内忍(やまうちしのぶ)俺の一個下の後輩にあたるが、これがとてつもなく可愛い。顔もそうだが雰囲気というのだろうか。山内を見た瞬間、つまらない俺の大学生活に一陣の光が差し込んだかの如く明るくなったと言っても過言ではない。コロコロと可愛い声で笑い、その時に見える右上の八重歯が、とてもチャーミングである。少々人に気を使いすぎるような所はあるが、恋は盲目。そんな所も全て良しとなる。思わず自分の感情が前に出てしまったが、山内がこの「怪異館」に入った理由は、民間伝承やそれにまつわる怪異などを知りたいという事らしい。    そして俺。九田川連(くたがわれん)実は「怪異館」の生みの親でもある。幼い頃から幽霊や妖怪などが好きでその類の本や資料を読み漁っていた。長年細々と集めた怪異収集物を大学に入った事をきっかけにいろんな人と共有したく怪異館を始めた。宣伝やアピールを色々してきたが中々館員が集まらず諦めかけていた頃、叶人が入って来た。次に山内を引き連れた優菜が入り四人となる。 四人になり一人の時よりも幅広い活動が出来るのではと期待したのだが、結果は主にネット検索と誰かに聞いた怪談を話す程度のもの。どこかに出掛けて調査するなんて事は今まで一度もなかった。(そんな金もない)なので、今回の叶人の提案はとてもそそられる内容なのだがこんな個性派ぞろいのメンバーでの心スポ巡り・・山内と二人きりなら大歓迎だが、自信家の叶人と勘違いお嬢様の優菜がいる。楽しいサークル活動というのには程遠いのが予想されるだけに暗澹たる気持ちになる。
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