令和四年 秋 怪異館

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「あの・・私ちょっと・・」 小さな声で遠慮がちに異議を申し立てる人がいた。山内だ。 俺は期待を込めて目の前に座る山内を見る。緩くパーマをかけた肩までの髪が、少し前のめりになったことで柔らかに動く。 「その日は私実家に帰らなきゃいけないの」 「実家?」 「うん。実家で成人の儀をやる事になっていて・・・」 最後の方は何故か声が小さくなり、皆の顔色を伺うように順番に見て行く。サークル内で一番年下の自分が参加できない事に負い目を感じているかのようだ。 「成人の儀?なにそれ。成人式って事?」 山内の隣に座る優菜がピンクに塗った爪を気にしながら聞いた。 「うん。コッチでは成人式って一月にやるようだけど、うちの方では今の時期にやるの」 「へぇ~」 自分で聞いときながら優菜はそれ程興味がないのか、間延びした返事をする。 「何でも、秋に成人の儀を執り行う事で実りのある人生を歩めるようにって・・・亡くなったお祖母ちゃんが言ってた」 優菜の反応を気にしながらも山内は律義にも説明をする。 「確かに今の時期は気候もいいしね。一月だと寒いし雪なんか降ったら折角の振袖が台無しになりかねないからいいのかもしれないな」 そう言った俺は頭の中は、振袖を着た普段とは違う山内の姿を想像していた。 是非とも見て見たい。 「忍ちゃんの実家って何処だっけ?」 立ち上がっていた叶人が座りながら聞く。 「朝比奈村。凄い田舎なの」 少し恥ずかしがりながら山内は答えた。 その様子がまた初々しく可愛い。俺は、自分の鼻の下が伸びないようわざと咳払いをする。                 「ええっ!!朝比奈村なの?」                                             叶人が大袈裟に驚いた。                                                「丁度いいじゃん!今回行く心スポの一つに朝比奈村も含まれてるんだよ」                          「朝比奈村が?そんな田舎に何か曰くがあった?」 優菜は田舎という部分をやけに強調して叶人に聞く。優菜の実家は東京である。お嬢様に田舎は似合わないとでも言いたいのだろうか。 そんな優菜を俺はそっと睨む。 「おいおい、お前も「怪異館」のメンバーなんだろ?ちょっとは勉強しろよ。いいか・・・」 勉強不足と言われた優菜はぷうっと頬を膨らましそっぽを向くが、叶人は構わず話し出した。 「実は、今回の心スポツアーのメインは朝比奈村と言っても過言ではないんだ」 仰々しくそう前置きした叶人の話の中に「戻らずの竹」「鳴く山」「笑う女」という言葉が出てきた。
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