朝比奈村

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朝比奈村

四〜五時間かけ、俺達四人はようやく朝比奈村についた。 情緒を感じたいという叶人の意見で電車を乗り継ぎ来たのだが、案の定優菜が「遠い」「疲れた」「畑ばっかり」等の文句を言い出す。そんな優菜を叶人がなだめすかしやっと最寄りの駅に着く。少々寂れた駅で、賑わいもなくコンビニと不動産、駐車場があるだけの寂しい場所だった。 駅には山内の兄(正太郎)が車で迎えに来てくれているという話だったのだが、初めて見た正太郎は恐ろしいほどの美男子だった。すらりと背が高く、こう言っちゃ悪いがこんな田舎には不釣り合いなほどの美男子だ。 先程まで、そのままUターンして帰ってしまうような勢いだった優菜は正太郎を見た途端に「のどかでいい所ですね」「空気が美味しくて癒されます」等嬉しそうに正太郎に話しかけているのを見た俺は、女の変わり身の早さを目の当たりにし驚いた。 正太郎は、優菜をうまく交わしながら俺達に挨拶をした後車に乗り込んだ。巧みにハンドルを操作しながら、愛想よく今回の成人の儀について話してくれる。 「ここの成人の儀は皆さんが知っているようなものではないけ。田舎特有の儀式で驚くかもしれんが、怪異館のメンバーならと思うけ。それが無事に終わったらとても景色がいい所があるので案内するけ」   どうやら朝比奈村の人は、言葉の語尾に「~け」とつけるようだ。その方言のせいか、折角の美男子も少しだけ格下げされるように感じる。 「わ~!是非連れて行ってもらいたいですぅ!」 優菜はそんな方言など気にならないのか、後部座席から体を前に乗り出しながら黄色い声を出す。 (無事に終われば?成人式だろ?・・・何か危険な事でもあるのか?) 喜ぶ優菜を横目に、俺は正太郎が言った言葉に引っかかりを感じていた。 最寄りの駅から車で二時間ほど走り、ようやく朝比奈村に入る。ここまで来るのに峠を二つも超えた。情けない話だが、俺は右へ左へとウネウネとした峠にすっかり参ってしまっていた。 二つ目の峠の所で道が二股に分かれており矢印の案内板の様なものが草むらの中に立っていた。とても古く、書かれた文字が読み取りにくくなっているが、左が朝比奈村。右が片庫裡村(かたくりむら)と書かれている。正太郎の話では、昔は片庫裡村しかなく後に朝比奈村が出来たという。 暫く進むと、刈り入れが終わった田畑が広がりポツンポツンと民家がある場所に出た。今は農閑期なのか田畑に人はいなかった。目の前にはそれほど高くない山が二つそびえている。その山を見た俺達は思わず驚嘆の声を出した。まるで山を鏡に映したかのように瓜二つの山だったからだ。双子山である。 「すげぇ~な!本当に同じだよ」 「ああ。木の生え方や本数まで一緒かと思うぐらいだ」 「・・・信じられない」 初めて見る双子山に俺達三人は目を奪われる。 「それにあれ」 叶人は窓の外を指さしながら言った。 双子山にも驚かさられるが、村を挟むようにして両側に生えている竹林が見事なものだった。特に左側の竹林は、緩やかなカーブを描く道に綺麗に沿った竹林で明らかに人工的に植えられたものと思ってしまう。 「植えたにしろ自然にしろ、道に沿って綺麗に生えるって凄いですよね」 「本当、竹に囲まれた村なんて初めて見たわ」 「俺は生まれた時から見てるからそれ程凄いとは思わないけど、友人が遊びに来た時はみんな双子山とこの竹林を見て驚くけ・・さ、着いた」 正太郎は楽しそうに話すと、目的地に着いた事を知らせる。 双子山の麓に建つ山内の実家は、朝比奈村の中でも特に大きな家だった。屋敷とも呼べるその家は、後ろにそびえる双子山を守るかのように門から左右に長い板塀が続く。外から見ただけでも平屋の家は大きく、敷地内には蔵らしきものがいくつもある事が分かる。 「忍ちゃんの実家って凄いな。もしかして金持ち?」 「ハハハ。そんな事ないけ。都会と違って色々が安く済むから大きな家も建てられるけ」 正太郎は笑って話す。 「そうね。私の家は東京にあるんだけど、きっとここの朝比奈村全体買ってもまだ余るぐらいの値段なんだと思うわ」 優菜が無駄に見栄を張り出した。 「ハハハ。東京は何でも高いけ」 正太郎は優しく笑いながら優菜の言葉を交わすと、家の中へと促してくれた。
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