手紙

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「所詮人は自分の事しか考えてないけ。簡単に人を騙し捨てる。まるでゴミ扱いけ。あんたらみたいにぬくぬくと育った人間には分からないけ。ワシの母親は・・・母さんはワシを育てるためぼろ雑巾の様に働いたけ。人に優しくしていればきっと自分にも優しくしてくれる人が現れる。ずっとその言葉を言いながら働いたけ。でもそうじゃなかったけ。所詮他人は他人。いざ助けて欲しい時、簡単にアイツらはワシらを捨てたけ」 ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうな程、歯を食いしばる。 「アイツら・・・」 「ふん、思い出すだけで腸が煮えくり返るけ。とにかくワシは間違ってなんかないけ。毎年成人の儀をやるもんがいたから生贄には困らんかったが、もう山内家の娘で成人の儀を迎える人間はこの村にはいなくなるけ」 「どうするんだ・・・」 カネは汚らしく口元を歪めると 「今の時代本当に便利になったけ。インターネットとかいうもんで、若い奴らがこの村に来るけ」 「やっぱり・・今まで行方不明になってる人達はあんたが」 「そうけ。生贄は多い方が妙も喜ぶけ。現に朝比奈村は何事もなく平和に存続しているけ。でも、今年は駄目け」 ギラギラとした目を山内の方へと向けた。 「お前がこの余所もん達に見られてしまったけ。失敗け」 山内は小さく息をのむ。 「失敗したもんはちゃんと責任を取らなくちゃいけないけ」 「責任・・・」 「お前が生贄になるけ」 カネはそう言うが早いが、山内めがけて突進していく。その速さは尋常ではなく、まるで野生の猿の様に俊敏な動きを見せた。 「なっ?!」 カネの手に鈍く光るナイフが握られている。 「逃げろ!!」 俺はそう叫ぶと、カネを止めようと両腕を伸ばしたが指先が少し触れただけで届かない。 「あははははは!!」 カネは大声で笑い右腕を高々と上げナイフを振り下ろす。 「忍ちゃん!!」 「やめろぉぉっ!!」 俺と叶人の叫びが双子山に響き渡る。 「ぐっ・・」 くぐもった声が小さく聞こえた。 どさりと倒れる音。 「な・・・んで?」 立ち尽くす山内は、わなわなと震える声で言った。 背中にナイフが突き刺さったまま倒れた優菜は、山内の方を見てニヤリと笑うと 「あんたは・・私の・・たった一人の友達だからね」 と言って目を閉じた。 「優菜!!」 叶人が優菜の元に駆け寄り抱き上げる。 「優菜!!優菜!!優菜!!」 ぐったりとした優菜は反応がない。 俺は今目の前で起こっている事が現実なのか夢なのか分からなくなっていた。身体がこわばり声も出ない。 「ちっ。まぁ生贄が出来るなら誰でもいいけ」 「てめぇ」 叶人は血走った眼でカネを睨む。 カネは、そんな叶人をあざ笑い踵を返したその時だ。
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