正太郎

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正太郎

俺はキヨが立っていた場所をいつまでも見続けていた。 「いや~まさかこんな事になるとは」 突然、そう言いながらガサガサと藪の中から誰かが出てきた。 「わっ!!」 驚いた俺が見た先には、驚いたようにお地蔵様を見上げる正太郎だった。 「正太郎さん・・なんで・・」 正太郎は満面の笑みを浮かべ俺に近づくと、ドカリと胡坐をかいて座る。 「まさか君達がここまでやるとはね。ぜ〜んぶ見させてもらったけ。いや〜驚いた」 「・・・・・・・」 「さっきのがキヨ婆け?俺、初めて幽霊見たけ」 驚いている様子だが、どことなく飄々とした言い草に俺は少しカチンときた。 「正太郎さん。俺達を祭壇に閉じ込めたりして本当に生贄にしたかったんですか?俺達死ぬところだったんですよ?」 「あ~それね。あれはホント悪いと思ってるけ。まさか、カネさんが火をつけるとは思わんかったけ」 顔を曇らせ正太郎は言った。 「正直な話、俺はこの村の古臭い風習、成人の儀をぶっ壊してくれる奴を探しとったけ」 「ぶっ壊す?」 「そ、ぶっ壊す。妙の呪いか何か知らんが、今時そんなもん流行らないけ。本当は俺がぶっ壊すつもりだったんだけど、ほら、俺長男け。あれだけの広い屋敷を捨ててまではちょっと出来んかったけ」 「捨てるって・・・」 「この村に産まれたが故に、その村の掟に従い生きる。そんなふざけた事あるけ?俺の生き方は俺自身が決めるけ」 「でもそう簡単に長年受け継がれてきた事を突然辞めるなんて事は・・」 「出来ない。分かってるけ。だからやってくれる奴を探しとったけ。前にも言ったけど、君ら三人は個性が強い。こりゃいけるんじゃないか?って思ったけ。個性の強い奴は何かと好奇心も強い。ましてや忍の変化にも興味を持つだろうしね。そして君は・・忍の事が好きだし」 そう言ってニヤリと笑う。 「す、す、す・・・はい」 最初は慌てたが、正直に頷いた。 「成人の儀が、俺達が知っている成人式とは本当に違うという事はあの祠の中に頭が二つのお地蔵様を見て思いました。こう言っちゃなんですが、祝い事でお参りするには抵抗がある」 「ふん」 「次に山内が成人の儀当日に来ていたウエディングドレスです。流石に度肝を抜かれましたよ」 「あれは、成人の儀をやる女達が言い出した事け。二十歳までの自分が結婚できないのは可哀そうだって言って」 「やはりそうでしたか。正太郎さんに聞きたいんですけど、あの祭壇は誰が作ったんですか?俺は、カネさんの母親が作ったんだと思ってるんです」 「ああ、あれは元々あの地下にあった物け。それを俺がちょっと手を入れた」 「元々あった・・じゃあやっぱり・・」 「多分そうけ。色々利用させてもらったけ。妙の呪いがあるという事を色濃く見せるために、骸骨だった物に薄く肉付けしたりして。あの頭、上手く出来てるだろう?結構苦労したけ」 自慢気に話す。 「興味本位で村に来た人達に見せるんですね?そうすれば、成人の儀の時、俺達みたいに覗いた奴が台無しにすると思ったんですか?」 「まぁね。でも、カネさんに邪魔をされて上手くいかんかったけ。あの人は頭のいい人け。俺が根回ししたものをことごとく駄目にしていったけ」 そう言って、山積みになったお地蔵様の方を見た。 「このお地蔵様達も終わりにしたかったんだと思うけ。今までの話が本当なら・・いや、俺もさっきキヨを見ているから本当なんだろうけど、このお地蔵様の本来の意味は生贄なんかじゃなく、殺された子供達を供養するためにあるんだからね」 「・・・はい」 俺は何故かホッとしながらそう返した。 今目の前で喋る正太郎は、建前の自分ではなく本当の自分として話してるのだろうと思ったからだ。 自分の人生は誰の物でもない。自分の人生だ。昔はお家柄などの縛りがあったかもしれないが、今の時代そんなのは時代錯誤だと俺は思う。周りの目など気にせずやりたい事を自分で決めやる。それでいい。例えそれが失敗したとしても、自分で決めた事。諦めもつく。でもこれが他の人を気にするが余り自分の意思とは違う判断をした事で失敗をしたとすると「あの人のせいで」等と人のせいにする。だが、その「あの人」は何とも思っていない。これほどつまらないものはない。だから、自分の人生は自分で好きなように生きるのだ。 俺は清々しく晴れ渡る空を見ながらしみじみと思った。 「あ~黄昏てる所申し訳ないが・・」 「はい?」 頭を掻きながらどこか言いにくそうにしている正太郎を見た。 「なるべく早くここから逃げた方が良さそうけ」 「へ?逃げる?何からですか?」 「ここから」 と、正太郎は地面指さした。 指さした方を見るが、草が生えているだけで特に変わりはない。一体何を言っているのか分からなく、もう一度正太郎に視線を戻した時だった。 ぐらりと正太郎が傾いたように見えた。いや、違う。地面が大きく傾いたのだ。
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