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崩れる
背中にナイフが刺さったままの優菜を背負いながら必死に山を駆け降りる叶人。後ろから真っ青な顔をして必死についてくる山内。時折優菜にしっかりしてと声をかけている。
自分達が登って来た道を辿るのだが、背の高い藪があちらこちらにあるため走る叶人の顔を容赦なく叩きつける。
「くそっ!!」
一刻も早く優菜を病院へ連れて行かなくてはいかない。
「大丈夫だぞ!優菜!しっかりしろ!」
返事が返ってこないと知っていても、叶人は何度もそう声をかけ続けた。
「か・・・」
弱弱しくか細い声が聞こえた気がする。
「ん?」
「かな・・と」
「優菜!大丈夫だぞ。今病院に行くからな!」
「叶人は・・王子様に・・・なれるの?」
「お?・・お前聞いてたのか?あ、ああ!なれる!いや!なる!」
「・・フフ・・そう」
「だから、お姫様は病院に行くまで頑張らなくちゃいけないんだぞ!分かったか!」
「・・・・・有難う」
そう優菜が行った途端、先程よりもさらに重くなったような気がした。
「優菜?優菜?」
走りながらも背中にいる優菜に声を掛ける。返事がない。
叶人は大きく息を吸い、正面を見据えるとより一層早く山を駆け降りた。
山を下り祠がある場所から出て朝比奈村まで来た叶人と山内が見たものは、山内の実家の裏に停まる一台の救急車だった。
「は?」
「え?誰が呼んだの?」
「分からない。丁度いい。優菜を乗せてもらおう!」
藪のせいでひっかき傷だらけになってしまった顔を山内の方に向け、叶人はそう言うと猛スピードで救急車に向かって走り出す。
「ちょ、ちょっと、そんなに揺らしたら優菜が!!」
山内は慌ててそう言うが、叶人には届かなかった。
不思議な事に、救急隊員たちは承知とばかりに優菜を乗せ走り出した。勿論叶人は付き添いで乗る。
サイレンもならさず走り去る救急車を見送った山内は、ひとまず安堵のため息を出した。
「でも誰が救急車を呼んだのかな」
不思議に思い首を傾げた時だ。
遠くの方でドン、ドン、ドンという太鼓を叩くような何か重い物を落としたような音が聞こえてきた。
「なに?この音?」
驚いた山内は音の正体を探るため辺りを見回す。
「え・・・なに・・あれ・・・」
山内が見た先には、北にそびえる双子山。その双子山の麓から無数の黒い物が山頂に向かって飛び跳ねながら登っていく。
「・・・漣君」
まだ、漣が双子山にいる事を思い出した山内は慌てて走り出した。
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