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やっと出来た事
「え?え?え?」
「ほら、早く行くけ。もたもたしてると山と一緒に死んじまうけ」
正太郎は立ち上がり俺の方へ手を差し伸べる。
「は、はい」
正太郎の手を借り立ち上がった俺は、正太郎と共に走り出そうとした・・が
「あ!ちょっと待ってください!」
「ああ?なんけ!!」
「忘れた!」
踵を返しキヨが落とした手紙とへその緒が入った箱を手に取ると正太郎共に走り出した。
ゴゴゴゴゴという大きな地鳴りが次第に大きく聞こえてくる。
地面が揺れ、真っ直ぐ走っているつもりでも何故か右に左にそれていく。
「こっちけ!!」
正太郎は猿の様に跳ねながら山を駆け降りていく。
「ま、待って!」
山登りなんて殆どした事がない俺にとっては、正太郎を見失わないようにするだけが精一杯で早くなんて走れない。周りの木々がバキバキと派手な音をたて倒れていく。
「うわ~っ!!」
無我夢中で走る。何度も転び何度も立ち上がり走る。正太郎の背中だけを見ながら必死に走る。聞こえてくるのは、空に逃げる鳥達の騒ぐ声と地鳴りの音。バキバキと木々が倒れる音やザザ~ンという大量の葉が擦れる音。もう止まってしまうんじゃないかと思うぐらいの自分の荒い呼吸音。
「れ・・・・!!」
ん?様々な音に紛れて何か聞こえたような気がした。
気のせいか・・
「漣!!」
いや、気のせいなんかじゃない。誰かが俺を呼んでいる。
「しょ、正太郎さん!!待って!!」
目の前を軽い身のこなしで山を駆け降りる正太郎に向かって叫んだ。
「今度はなんけ!」
「誰か・・誰かいます!!」
「はぁ?!何処に!」
俺は耳を澄まし、先程の声が何処から聞こえたのか辺りをくまなく探して見る。グラグラと揺れる地面。立っているだけでもやっとだ。
「漣君!!」
俺達が来た方からだ。見るとフラフラとしながらも山内が必死に俺達の方へと走って来る。
「山内!!」
「忍?!何でこんな所に?!」
俺は慌てて山内の方へと駆け寄る。
山内は俺が気が付いた事にホッとした表情を浮かべた。その瞬間、山内の上に大木が倒れてきた。
「山内!!!」
後は無我夢中だった。とにかく山内を助けなくてはという想いただそれだけ・・・
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