やっと出来た事

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「・君・・漣・・」 遠くの方で山内が俺を呼ぶ声がする。返事をしたいが声が出ない。胸が苦しい。息が出来ない。 真っ暗な視界が徐々に明るくなっていく。空だ。どうやら俺は倒れているらしい。 「漣君・・・」 隣りを見ると俺の横で山内が横たわっている。よく見ると、俺たち二人の上に倒れてきた大木が乗っていた。 「や、山内・・大丈夫か?」 「ハハ・・ごめんね・・漣君まで巻き込んじゃって」 山内は力なく微笑んだ。 「なんで・・戻って来た」 喋る度に肋骨がギシギシと音をたて激痛が走る。 「山がおかしかったから・・漣君が大変だと思って」 嬉しい反面、戻ってきてほしくなかったという想いが入り混じる。 「でも、戻って来て・・良かった・・ごめんねって言えるから・・私本当は、大学を辞めたくなかった・・成人の儀の事は小さい頃からずっと・・聞かされれてきたの・・・・今の自分は落子なんだ・・新しい自分に変わるんだって・・でも何か私怖くなって・・」 喋る山内の口の端から血が流れる。 「分かった・・分かったから山内、もう喋るな・・きっと助けが・・」 山内は俺の顔を見て微笑んだ。俺が一番好きな優しい笑顔だ。 「漣君・・今の私・・今の私の事どう思う?」 「どうって?」 「今までは・・大人しくていい子だった・・でも今は違う・・やっぱりそんな子は・・嫌だよね・・」 俺は大きく息を吸ったつもりだったが、俺を押しつぶしている大木が呼吸をさせてくれない。次第に頭がボウっとして来る。 「俺は・・・俺は山内自身が好きだ・・どんな山内でも山内は山内だろ?」 その言葉を聞いた山内は、ホッとしたような表情で薄く笑った。 俺は体の痛みをこらえながら、隣にいる山内の方へと腕を伸ばした。温かい山内の手がある。最後の力を振り絞り、その手を力強く握った。 山内は更に微笑むと静かに目を閉じた。 (やっと・・やっと手をつなぐことが出来た) そう思った瞬間、俺の意識はそこで消えた。
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