17人が本棚に入れています
本棚に追加
「・君・・漣・・」
遠くの方で山内が俺を呼ぶ声がする。返事をしたいが声が出ない。胸が苦しい。息が出来ない。
真っ暗な視界が徐々に明るくなっていく。空だ。どうやら俺は倒れているらしい。
「漣君・・・」
隣りを見ると俺の横で山内が横たわっている。よく見ると、俺たち二人の上に倒れてきた大木が乗っていた。
「や、山内・・大丈夫か?」
「ハハ・・ごめんね・・漣君まで巻き込んじゃって」
山内は力なく微笑んだ。
「なんで・・戻って来た」
喋る度に肋骨がギシギシと音をたて激痛が走る。
「山がおかしかったから・・漣君が大変だと思って」
嬉しい反面、戻ってきてほしくなかったという想いが入り混じる。
「でも、戻って来て・・良かった・・ごめんねって言えるから・・私本当は、大学を辞めたくなかった・・成人の儀の事は小さい頃からずっと・・聞かされれてきたの・・・・今の自分は落子なんだ・・新しい自分に変わるんだって・・でも何か私怖くなって・・」
喋る山内の口の端から血が流れる。
「分かった・・分かったから山内、もう喋るな・・きっと助けが・・」
山内は俺の顔を見て微笑んだ。俺が一番好きな優しい笑顔だ。
「漣君・・今の私・・今の私の事どう思う?」
「どうって?」
「今までは・・大人しくていい子だった・・でも今は違う・・やっぱりそんな子は・・嫌だよね・・」
俺は大きく息を吸ったつもりだったが、俺を押しつぶしている大木が呼吸をさせてくれない。次第に頭がボウっとして来る。
「俺は・・・俺は山内自身が好きだ・・どんな山内でも山内は山内だろ?」
その言葉を聞いた山内は、ホッとしたような表情で薄く笑った。
俺は体の痛みをこらえながら、隣にいる山内の方へと腕を伸ばした。温かい山内の手がある。最後の力を振り絞り、その手を力強く握った。
山内は更に微笑むと静かに目を閉じた。
(やっと・・やっと手をつなぐことが出来た)
そう思った瞬間、俺の意識はそこで消えた。
最初のコメントを投稿しよう!