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卒論を提出し落ち着いた頃、叶人と優菜は朝比奈村へと向かった。
あの時と同じ電車に揺られ向かう。近代的なビルや無数の建物が無くなり、田畑が多い景色に変わっていく。
あの時の優菜はこの景色を見て「田舎じゃん」等と軽口をたたいていたが、今は何も言わずその景色一つ一つを目に焼き付けるようにじっと見ている。
最寄りの駅に着いた。相変わらずの寂れた駅前に人はおらず閑散としている。
「どうする?前は忍のお兄さんが迎えに来てくれたけど」
「う~ん、タクシーかレンタカー借りていくしかないだろうな」
「そんなものある?」
優菜は、たまに車が一台通るだけの駅前通りを見渡し言った。
「あれ~?君達また来たんけ」
陽気な声が飛んできた。
驚いて声のする方を見ると、寂れた場所には不釣り合いな派手なスーツを着た男がにこやかにこちらに近づいてくる。サングラスを掛けているので誰だか咄嗟に分からなかったが
「もしかして・・正太郎さん?」
流石優菜だ。
「覚えてくれてたの?嬉しいなぁ」
サングラスを取った正太郎はそう言って、白い歯を見せニカッと笑うと
「で?君達は何しにここへ来たんけ?」
俺達は咄嗟に言葉が出なかった。お互いに目を交わしなんて言っていいのか分からず逡巡する。
「・・成る程ね。OK。行こう」
察しがついたように頷いた正太郎は、俺達を自分の車の方へと促した。
車に乗り朝比奈村へと向かう。
「もう君達は大学卒業だろ?」
正太郎は器用にハンドルを操作しながら話し出した。
「はい」
「ふん。けじめをつけに来たっていうやつけ」
「・・そんなところです」
「あの時は本当に大変だったけ。まさか山が崩れるなんて事までは予想してなかったからね。でも良かったけ。俺が呼んでおいた救急車が役に立っただろ?」
「え?あれって正太郎さんが呼んだんですか?」
「グッジョブってやつ?それより、村に行ったら驚く事が二つあるけ」
「驚く事?」
「そ、覚悟しとくけ」
そう言うと最初に会った時と同じように、白い歯を見せニカッと笑った。
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