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以前、四人で登った時は背の高い藪が生い茂り歩くのも困難だった双子山が、今では無惨にも山肌が至る所に見え木々があちらこちらに倒れている。
山の再生には一体どの位の年数がかかるのだろうか。
叶人はそんな事を考えながら登りやすくなった双子山を登る。
「ここけ」
正太郎が止まった場所は、妙の墓がある場所だった。
墓の周りの木々は何か重たい物で押し潰されたように無惨な姿を晒しているのに対し、墓は見た時と変わりなくそこにあった。
「これってお妙さんのお墓ですよね?」
「ああそうみたいだね。それじゃなく、俺が言ってるのはこっちけ」
そう言って妙の墓から少し離れた地面を指差す。
倒木のお陰で見えづらかった叶人と優奈は、足元に注意しながら正太郎の近くまで行った。
「え・・・」
「何・・これ」
二人は絶句し言葉が出なかった。
正太郎が指差す方には、横並びに立つ二つの小さなお地蔵様だった。
頭が一つの普通のお地蔵様。
ただ他のお地蔵様と違うのは、体は正面を向いているのに顔だけ横を向きお互いを見つめ合うようにして向き合っているところだ。それに手。左側のお地蔵様の左手と右側のお地蔵様の右手がしっかりと繋がれている。
「山が崩れて暫くしてから警察の捜索が入ったけ。勿論俺は二人がいた場所を教えたが二人は見つからず、代わりにこのお地蔵様があったけ」
お地蔵様の前には綺麗な花が花瓶に活けられ、太陽の光を浴びている。正太郎が持ってきた物だろう。
「キヨの最後の願いも俺の方でちゃんとやっといたけ」
「最後の願い?」
「妙の墓にあった物と、片庫裡村にある着物を双子山に埋めてほしいと願っとったけ。蓮くんのお陰で朝比奈村は生まれ変わり、二人の愛が朝比奈村を見守ってくれると思うけ」
「蓮・・・忍・・」
優奈はその場に崩れ落ちるようにしてしゃがむと、大粒の涙を流し始めた。
叶人は、唇を固く結びジッと二つのお地蔵様をいつまでも見つめていた。
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