祠の中には

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祠の中には

暗闇の中に入った瞬間気温がグンと下がり、竹の匂いがムッと強くなった。砂利の道から落ち葉が多い道となりカサリカサリという落ち葉を踏みしめる足音が響く。二人分の足音。俺と後ろからついてくる優菜の足音だ。薄暗い中で聞くその音は、俺の気持ちをゆっくりと乱していく。今俺の後ろにいるのは優菜のはず。だから聞こえる足音も優菜の足音のはずなのだが、本当に優菜なのかという疑いが出て来る・・・もしかしたら、この暗闇に足を踏み入れた瞬間優菜ではなく得体のしれない者が俺の後ろからついて来ているのではないか・・叶人ではないが、もう異界へと足を踏み入れてしまったのではないか、という事が頭をよぎり背中がヒンヤリする感覚を覚える。 「お、来たな」 前方から叶人の声がする。 「あ・・ああ」 現実に引き戻された俺は、ホッとして返事を返す。 「優菜も来たんだろ?ああ来た来た。これ・・・マジ凄い」 叶人は三人集まった事を確認した後、携帯のライトで祠の中を照らした。 「なんだこれ・・」 「きゃっ!!」 祠の中を覗き込んだ優菜は小さく悲鳴を上げ、俺は言葉を失った。 ライトに照らしだされたのは小さなお地蔵様だった。しかしソレは普通の俺達が知るお地蔵様ではない。こけしの様な身体に少し大きめな赤い前掛けをした姿。そこまではいい。問題は頭だ。通常、人間でも仏像でも大抵体に頭は一つしかないはず。しかしこのお地蔵様は身体の上に小さい頭が二つ乗っかっているのだ。その顔は正面から見て左側の顔はにこやかに笑っているのに対し、右側の顔は苦しそうな顔をしている。 首なし地藏というのは怪談話や心スポにもありがちだが、二つの頭を持つお地蔵様はあまり聞いた事がない。 余りの異様な姿に言葉が出ない俺と優菜に 「マジ凄いな」 と、先程と同じ言葉を叶人は繰り返し言った。恐らく叶人も、自分の想像をはるかに超えたものが入っていたので驚いているのだろう。 「これヤバくない?」 暗がりでも分かる程に顔を青くした優菜が掠れた声で言う。 「ああ。確かにこんなお地蔵さん見た事ないよな。大体何で頭が二つあるんだ?結合双生児というのは知ってるけど、お地蔵さんまでそう作るか?それにそのお地蔵さんを祠に祀る必要があるのか。頭が二つの神様なんているのかよ」 叶人は矢継ぎ早に俺達に向かって聞くが、答えられるはずなんかない。俺達だって知りたいことだ。 「これ・・・見たって事は誰にも言わない方が良いよな」 「うん。絶対怒られるよ」 「ああ」 結局、三人の意見が一致したのはこれだけだった。後は何も分からないし、この事について誰にも聞けない。聞いてしまったら、この祠の中を見た事が分かってしまうからだ。 叶人はゆっくりと観音開きの扉を閉めた。 その後、足早にその場を後にした俺達は無言のまま山内の実家へと戻った。
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