部屋

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部屋

「ほら、行くぞ」 瑞希の手は冷たくて。 冷えるのを我慢してお洒落をしたせいか、俺を待ってるあいだに冷えたのか。 後者であってほしい、なんて、考えた。 停止線で止まる車のライトに照らされて、横断歩道は、ランウェイのようだ。 これが、 彼女です、俺の自慢の彼女ですって みんなにお披露目するためのステージなら、 どんなに、うれしいだろう。 慣れないヒールで歩きづらいのか、瑞希が、俺の手を、逆に、ぎゅっと握り返してきた。 くそっ。 現実は…..ちがう。 「あ、やべ」 そうだ、夜遅くに降りだすっていう予報だったな。 ポツ、ポツ、ポツと雨が当たりだした。 「隼人、寒くないの?」 「ねーよ。」 「そう……どうして、いつもダメになっちゃうのかなぁ。もう、飽きちゃったって。しかも、婚約者できたって…」 「…後できいてやるから、今は急げよ」 ほんとは、そんな話、ききたくねーよ。 電車は長椅子に並んで座った。 暖かくて緊張がとれたのか、瑞希は、俺の横でうとうとしていた。 結局、彼女の部屋に着くまで、一言もしゃべらなかった。 「ほら、ちゃんと体ふけよ。お前、昔から、すぐ風邪ひくんだから。」 タオルを渡した。 「うん。服、替える。」 そういって、彼女は洗面所に着替えにいった。 そのあいだに、自分も体を拭いて、お湯を沸かした。 「えっと、カップと」 勝手知ったる部屋。何回、ここに来ただろうな。 そのたびに、なにもできずに帰る自分が、男としてどうなんだろう、と、情けなくなるんだよ。 きっと、今夜もそんなところだろう。
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