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「時間を取らせて悪かったな。最後に、俺もきみとはもう関わらない。出会った形があんなものでなければ、きみの素行がそんなものでなければいい後輩だったんだろうなと思うと実に残念な気持ちだよ」
「言っとくけどね、晶は考えもなくイヤミなんて言うひとじゃないから。そこんとこ、履き違えないでよね」
「わかりました。では、失礼します」
俺は態度がシャクに障るふたりを背に、喫茶店から帰路についた。
「皆さん。運も実力のうちといいますが、先生は運でチャンスが訪れて実力でそれを掴むものと考えております。今後の高校生活や再来年の大学受験、さらにそのあとの人生でも様々なチャンスや試練が訪れるでしょう。
先生は、皆さんに引き続き将来を見据え努力で実力の質を高めながらチャンスや試練に備えることで、栄えある未来を生きていただければと思います。
それでは、各自体育館に移動し、始業式は新たなクラスの列に並んでください」
戸田の担任最後のあいさつで、新年度の幕が開けた。
それから俺は、周りからよそよそしく接されながら残りの高校生活を過ごした。しがらみから解き放たれた俺は無事現役で志望大学に合格した。世話焼きなどっかの誰かたちの、余計な言葉が事あるごとに脳裏によぎるそのなかで。
◇◆◇
「わたし、あなたと同じ高校じゃなくてよかった」
大学のゼミで出会った女房に、ある日過去を打ち明けたときにそう言われた。大学で出会ったからこそ今のいままで関係がずっと続いているが、もし高校時代を知っていたら近寄りもしなかっただろうなと。
俺は大学に入ってからは、なんとなく惰性で過ごしながら「普通」を学んだ。上京しひとり暮らししながら適当な講義の単位を取って、適当な仲間と交友し、たまたまコンパで相席になった適当な女と付き合って、適当な会社に適当に自分を売りこみ就職して、特にさしたる不満があったわけではなかったからそのままズルズルゴールイン。
ありふれた生活のなかでありふれた幸せが手に入りながらありふれた普通の生き物になっていった。
佐古と先輩がどうなったのか、結婚したなら結婚式は見てみたかったなと頭をよぎり、それくらい感謝してるのも何も知ることができないことを後悔してるのもあいつらの思惑どおりになったと思うとほんの少しだけ腹が立った。
「肩肘張り過ぎなくていい、平凡だろうとそれでいい。ただ、幸せに生き抜いてくれ」
公園で同年代の子どもと遊ぶ我が子を見つめ、俺はそう願いを込めた。
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