<BE TOGETHER-2006.SPRING>

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・ ・ ・ 「すずきあえでーす。鈴木亜美と一文字違いなんだー」 どうでもいいけど、なんか覚えてしまうな、と思った自己紹介は、今も記憶に残ってる。 彼女と出会ったのは、高校の軽音楽部。中学陸上部でも一緒だったあっきーの「モテそうだし入ろうぜ」の一言で即決した。 あの頃は世の中の理不尽な事や世界に対して敵意ガンガンの癖に、女にはモテたい、認めて欲しいという気持ちが強かった。今思えばどっちも俗っぽい感情だ。ボーカルを誰もやりたがらなかったので、じゃあオレやるわ、と同学年でバンド結成し、あえ先輩は1年上で別バンドを組んでいた。 当時は同じボーカルか、くらいにしか思わなかった。 ・ ・ ・ 次に記憶に残っているのが、進路指導室から出てきた先輩と廊下でバッタリ会った夏の終わり。 「あえ先輩、どこ行くんすか?」 以前鈴木先輩と言ったら、名前で呼んでー、と言われたので”あえ先輩”呼びが定着していた。 「2-2」 「じゃなくて、進路」 「あー。ワタシちっちゃい頃から保育園ごっことか好きだったし、保育士か幼稚園の先生になろうかなと思ってるー」 「へー意外」 「割と言われるー。でもさ、職業なんてやってみないとわかんないけどさ、少なくともこういう仕事だと、数字で測られることないじゃん」 「数字って?」 「学校だと成績評価とか出るけど、子どもらの成長って目には見えない、数字ではジャッジされない。営業何件取ってきたとかに比べたらね。それに就職先が近場で探せるのも魅力かなと思うんだよね。ほぼほぼ園がつぶれて失業することもないし。それから市内に教育学部あるしねー。まーとりあえずだよ!進路希望出せって言われたから出すの!」 「潔いっすね」 淀みないとりあえずが清々しい。オレもスパッと割り切れたらいいのに。 「よく言われるー」 あ、そ言えばー、頷きから急に顔を上げて問いかけられる。 「光永くんって163とか164くらい?」 「まー、そんなもんっす」 本当は四捨五入しても足りて無いけど。この人何か思いついたら話さないと気が済まないタイプだよな。 「やっぱりー!最近V6ハマっててさー、剛くんと健くんがそれくらいなんだー」 「はあー」 「光永くん、何となく剛くんに似てないー?」 「や、つり眉なだけでしょ」 この前同じことを言ってきたおかんに返した通りのことを喋る。 別に森田剛には何の感情も無いけど、岡田くんファンの杏樹が「こんなのと一緒にしないで!」とおかんに言ってきたことは腹立たしい。 「いやー!身長も一緒だしー、今度カラオケでV6歌ってよ!」 この間文化祭で歌ってるのみてたらピンときてさー、あGLAYも良かったよー。光永くん、堂々としてたよね。よく人前で歌ったりしてるのー? 独特のテンポで次々と言葉を繰り出されたけど、不思議と嫌じゃなかった。 「全然慣れてないっすけどね。ハッタリかますの好きかもと思った」 ハッタリって、と身体を揺らして笑ってくれた。 そうだ明日カラオケ行こうよ、他のメンバーにも声かけておくし、と別れた。 じゃあワタシ一番、と歌本も見ずに空でカラオケ番号を入力し、鈴木亜美の「BE TOGETHER」を熱唱するあえ先輩。 「あえ先輩って、鈴木亜美好きなんすか?」 「んーん。名前が似てるからノリで覚えようと思ったら定番曲になっちゃったー。歌いやすいし」 次入れるわー、と歌本をめくって曲を調べるあえ先輩。ドリンク取りに行ってくるね、と立ち上がるとスカートの下の黒タイツをどうしても見つめてしまう。 細身だけどガリガリ過ぎないほど良い肉付きの形の良い足にこっそり誘惑されてしまった。 気持ちを落ち着けようとトイレに行って帰ってくると、勝手にV6の曲がオレ用に入力されていた。 これだったら知ってるでしょ、と、マイクを渡され、まー……と言いながら歌い始める。 杏樹がしょっちゅう歌番組見たり、CD流してるお陰か、そこそこ歌えた。 オレが歌うのを、いいじゃーん!と聞くあえ先輩の思いがどこにあったかは今でもわからない。
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