3人が本棚に入れています
本棚に追加
何で連絡先聞いておかなかったんだろう。こんなに頻繁に思い出すようになるってわかってたら、絶対に聞いておいたのに。
まあ、進学先が一緒だから来年は会える。文化祭には遊びに来てくれそうだし。つうか自分が受かること考えようぜ。
と思っても、雪がちらつく卒業式後、じゃあねっ、と風のように消えていく姿が夏の今でも鮮明に残っている。
あの日から残像が消えん。何度も何度も思い出しちまう。あえ先輩の後ろ姿に、行かないで、と声をかけたくなっちまう。腕を引っ張りたくなっちまう。違うな、組み伏せて抱き締めてめちゃくちゃにしてやりたくなる。
♪あーなたに
会えたそれだけで良かった
愛されたいと願ってしまった
CMのフレーズを聞くと、会えただけで良かったなんてウソだという気持ちと、愛してほしい気持ちが絡まり渦を作り胸を落ち着かなくさせる。
恋、なんかな。ただでさえ受験でピリピリしてんのに落ち着かない。
遠い。
・
・
・
高校最後の文化祭を歌い終わり、ジュースを買いに行くという名目であえ先輩を探していた道中
「よかったよー」と声をかけてくれたのは、あえ先輩。茶色に染めてパーマかけて、キャミソールにタイトなスカート、高さのある靴を履いて、すっかり大学生が板についていた。
「あざーっす」
鼓動がドクドク、ドラムのように鳴り始めた。人前で歌っている時より緊張してる。ヤバイヤバイ、祭りが始まっている。気取られないように素気なく、大学どうすか、と聞いてみる。
「大学楽しいよー。彼氏作りたいからテニスサークルとか入ってみたけど……全然だわ。大学生になるだけで彼氏出来たら、皆苦労しないよねー」
誰か格好良い人いないー?と模擬店をキョロキョロ見渡す。言おうかな言おうかな言おうかな言おうかな。
いかがですかーの呼び込みの声、落とし物のアナウンス、迷子のママを求める叫び、おいしいねーのお客さんの会話、それよりもオレの声は小さかった。
「オレ……彼氏になりたいな」
「いーよ?」
「いーの??」
一瞬目を丸くして、とぼけた風に返事されたから不安になった。
「その……本気なんですけど……ネタとかじゃなくて」
「いーよ、付き合お。はい、手ェつなごっ」
ほいっとカゴバックを持っていない方の手を差し出す。
「いやいや、即断したらダメっしょ!」
「なんで?」
「こういうのってじっくり考えないと!」
「とりあえずだよ。とりあえず付き合ってみなきゃわかんないじゃん?断る要因無いし」
「お試しってことっすか?」
「それがいいなら、それでもー」
「……やだ。ちゃんと付き合いたいっす」
「なら、それで」
はいっと再び手を出されるが、恥ずかしいからここでは無理っす、と伝えると、そっか、と手を引っ込めてくれた。
初めての両思い?かはわからんが、初告白、初付き合いは間違いない。
また連絡するね、と彼女は帰ってった。
欲していたもの以上のものを得られたことに、足が地につかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!