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<CLUB UNDERWOELD-2007.SPRING>
<CLUB UNDERWOELD-2007.SPRING>
「面白い先生だね」
あえがくすっと笑う反応に、共感して欲しかったのに、と呟き返す。
「向いてねぇのかなー」
「さあねー。まだ4月だしねー」
オレの想いを受け止めるけど、受け入れはしない。軽く聞こえる語尾伸ばしの癖に反して硬い芯がある。だから安心して何でも言える。
「あえは?新年度どうなん?」
「まあ大変だけど、念願の3歳児だからねー、嬉しい気持ちが勝つよねー」
「そういうもんかなー?オレはそこまで思い入れねぇなぁ。確かに元担の子って可愛いけど」
光永先生だ、といつも一番に俺を見つけて側に来てくれる葵ちゃんを思い浮かべる。
「絶対、この子ら卒園させたいしー。あと2年ご飯も頑張っていくしかなーい」
あえは園長との会食に足繁く通っている。あえの園も園長が人事を取り仕切るから、気に入られるよういい年して独身の男園長と同年代の既婚女看護師とプライベートでご飯に行っているらしい。
初めて聞いた時、本当に接待とかってあるんだな、と、園長と食事を重ねてまで実現したい希望の進路があることに、二重に驚いた。
「来年はまあどこでもいいけど、その次は5歳児持つ!それで仕事には一区切りそれから結婚!」
いつからか勝手に決められた未来日記を繰り返しつぶやくようになっていた。
パワーあふれる彼女は、これと決めたら迷わずどんな手段を使っても結果を得に行く。付き合えたのも”彼氏が欲しい”という時期に合致するラッキーがあったからだ。
彼女の突き進んで行く姿を見るのがずっと好きだった。
あえは話しながらも、鉛筆で丸をかたどる手は止めない。あえがかたどった画用紙を一番上にして、3枚の画用紙を重ねてホッチキスで閉じる。
日曜日、あえのモノトーンでまとめられたシンプルな部屋。机を囲んで持ち帰り仕事を一緒にするのがデートのルーティンになっていた。
今日は、お互い鯉のぼり製作の準備だったが、あえの提案で目玉を同じ大きさにして一緒に切って黒目貼っちゃおうよ!と言うことになった。
「るーさんのクラス何人だっけ?22?」
「そー、22」
「おっけー、うちが20だからー42か」
「目玉、裏表すんの?」両目いるなら倍量いるなと思いながら、
「片面でいいっしょー。予備入れて44で」
時短のため4枚重ねた画用紙をハサミで切っていくあえ。あえが切った白目に黒目をのりで貼り合わせていく。スティックのりが擦り切れて無くなったので、2本目を筆箱から出す。製作準備をすると異様な速さでのりが消耗していくので、仕事しだしてから一番多く買った物かもしれない。
貼りながら、あえの長い髪が柔らかい風に吹かれるのをぼーっと見る。
何があっても揺らがないような真っ直ぐな眉。切れ長で涼しげな顔。細身で抱きしめたくなる華奢な身体。
あっさりした外見とは逆に気が強くエネルギッシュで甘えさせてくれる彼女。
高校の時からずっと好きだった先輩と付き合えて大学時代は幸せだった。彼女が一年先に就職した時は寂しくて他に出会いを求めに行ったけど、誰と過ごしても彼女が一番だと、彼女が与えてくれるものに勝るものはねぇと思った。
去年から二人とも社会人になって、会える時間もかんなり減ったけど、会ったら充電されるように幸せな気持ちになるのは変わらない。
目玉の数を数えて、ビニール袋に入れて、鯉のぼりの目玉は終わり。鯉のぼり本体は各々園で用意する予定だ。持ち帰り仕事は小さいものの方が持ち運びしやすいから。
「あーえたん♪」
片付け終えて立っているあえを抱きしめにいく。白のTシャツに黒い短パンのラフな服装。細っせぇな、可愛いなー、ヤリたいな。
手でいろんなとこを探っていくうちに欲が深まる。あえも同じ気持ちだったようで、
「しますかー?」
「んー」
さらっという彼女に、甘えた声で同意すると、ベッドに押し倒された。付き合い始めてだいぶ経って、探り合いの時期も終わり、彼女に責められてから、責め返すのが最近のパターンになっていた。
とぼけたように焦らすのが上手い彼女のリードに身を任すのが気持ちよくて、オレって心根は受け身な人間だなと思う。
明るくへらへら自信ありげにしているのは、そうしないと保てないから。そこそこ楽しい毎日があればすぐ満足してしまう自分と、鋭く人生を生きる意味を求める自分を隠すために。
付き合い出してから、見たくない自分が見えてしまった。気負わず現実を突きつけてくるあえといると、こっちの力も抜ける。
あえは足の指から額まで残さずねっとりと舐め尽くしてくれる。愛撫されながら、粘着質で”ワタシを感じて、ワタシを見て”の強い気持ちに触れると、もっと見てやんよ、と火を点けられる。
最終的に二人とも燃えるけど、点火はあえからのことが多かった。軽やかな風のように。
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