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<愛のしるしー2007.SUMMER>
<愛のしるしー2007.SUMMER>
「かじ先生、辞めたいと思ったことないんすか?」
午睡中、来週から始まるプール表を準備しながら、誕生カードをデコってるかじ先生に聞いてみた。
「無いわけないやん!」
「そうっすよね」
「でも、うちがいないと困るやろ?だからいる」
「すごい自信っすね」
「新しいとこいったら、ゼロからやん。子どもの名前、トイレの場所、靴置き場、全部一から覚えなあかん。でもここにいる限り、増えることはあっても減ることはない。年功序列みたいなもんでいればいる程、下が増えてやりやすくなる。
みっつ達は知らんやろうけど、みっつ達と入れ違いにベテラン勢がやめたやろ?それで園の雰囲気だいぶ変わってんよ。うちの2つ上の青山先生、あの人辞めたベテランの1人と組んでてめちゃ小言言われて病みかけてたんやけど、今面影ゼロやろ?」
青山先生は、あんま関わりないけどおっとりしてユーモラスな先生だ。衝撃を受ける。
「辞めたくなる日、あるよ。落ち込む日とか、仕事行きたくない、とか。そんな日でも積み重ねることで昨日よりも自分が必要な存在になればええな、って踏みとどまってる。そんなイメージや」
「うちはずっと現場で働きたいねん、出世とか考えてへん。ただ残業せず要領よく働いていきたい。どうせ働かなあかんのやったら、居心地良く働きたい。居座ってたら心地が良くなる、だから簡単には離れない。気持ちよく居座るためには、うちは価値がある人間や!って自分の中でだけ持っとく。だから、辞めたいと思ったら、うちがいなくなったらあかんねんから、って思うようにしてる。辞めたらあかん理由はうちがいないと困るから、で、辞めない理由はうちがいないと困るから」
「どっちも一緒じゃないっスか」
熱く語るかじ先生についていけない。
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全く共感はできないのに何かしら強い輝きを感じたから、印象に残ったのだろう。
このやりとりを何度も思い返すことになるとは思わなかった。
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