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<太陽のあたる場所へ-2007.SUMMER>
「ささのーは さーらさらー」
うちの5才児が、我が家に来て歌いながら短冊に 「ぷりんせすに なねますように」と鏡文字や一本線が足りないヒラガナを書いている。幼い頃は同居していたが、3歳頃にアンと2人暮らしするようになり、時々うちにも顔を出している。あえと付き合いだした頃にアンの妊娠が発覚した。アン。杏樹。オレの双子。
小さい頃は女子の方が発達が早いって言うけど、典型的なそれで、オレより喋りが上手い、逆上がりができる、折り紙が上手い、勝てる要素はギリギリ走りだけだった。それも9勝8敗くらい。小学校に入って、姉が辞める条件としてオレ達双子がピアノ教室に入ることになり、音が出るのが楽しくてピアノでは杏樹より先に進んでいるのが嬉しかった。認めてもらいたい、すごいね、と言ってもらいたい。同じ年に同じ内容に取り組みどうしても比べられる事が多いから、互いにライバル意識があったと思う。高校で別々になってからは、だいぶ意識しなくなっていた。大学は一緒になるだろうけど、まあ仕方ないと思っていた頃に妊娠がわかって、高3で?大学どうすんの?結婚は?となった。高校は結局どうしたか知らねぇけど、大学は諦めたし、父親に対しては一切話をしなかったから、シングルマザーでうちで3歳くらいの自立するまで育てて行くことになった。
全ておかん伝いに聞いた情報だ。正直、アンの妊娠出産に関わった記憶はない。関わり方がわからなかったし、あえとの付き合いで身も心もいっぱいだったから。
影響を与えたのは、避妊を確実にする、ことだけ。同じ家で過ごしているのに、ほとんど会話をすることなく過ぎていった。出産を機に抱っこしたり、あやしたり、赤ちゃんを通じて少し関わるようになってった。
「真由はプリンセスなりたいの?」
何を思ってか知らないが真由と名付けられたその子の顔を見ると嬉しそうに笑う。目がアンに似ているが、性格的には活発なアンとは違って穏やかな子だ。
自然と察するのでかみつきをされる事も、する事もなく育ってきた。
「うん!!ひなちゃんもなるし。いっしょににドレス きるんだ」
「そっかー」
ほのぼのとした真由らしい回答にホッとする。自分の子ではないが、同じ環境で過ごしたことは大きかった。教育学部にいる時、あえが目指していたのもあるけど、真由との生活が、子どもと関わる実感を与えてくれた。女ばかりの職場か……と思ったが、家族も女の方が多いし、自分には女が多いのがデフォルトな気がした。
オレの勤務先は民間の保育園だが、真由は市の公立保育所に入っている。うちの市の公立は子どもの主体性を大事にしているようで運動会や生活発表会の雰囲気が違う。オレんとこは、運動会が大人が考えたお遊戯や鼓笛隊を覚えてする、鉄棒・跳び箱をする。真由んとこは、忍者などテーマを決めて、そのストーリーの中で修行と称して体育遊具を渡ったり、忍者として表現しながら動いている。オレが園児なら真由んとこの園のが良いよなぁ、と思いながらも、お遊戯を覚えない子どもに「集中しいや」と声をかける。
面白くなくて当たり前だよな、大人が考えたものを押し付けられるんだもんな。
この園だけじゃないかもしれんけど、大人の都合が多すぎる。朝の集いで園庭に出てクラスごとに真っ直ぐ並び、砂遊びしたり、友達と喋っていたり、ふらふらしていると怒られる。そもそも、朝の集いっている?大人が伝えたい話をきっちり並ばせて聞かせるのは大人の自己満足じゃねぇかな、と冷めた目で見てしまう。
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