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<ジレンマ(How To Play "didgeridoo" Version)2007.SUMMER>
「縛り多いよねー、慣れちゃったら楽なんだけどねー、ルールが明確だと」
「ああ、そう」
がくっと拍子抜けた。同意を得るつもりで話したのに。隣にいる1年上の人は、慣れたのか。
エアコンをガンガンつけた彼女の部屋で、冷風を浴びながら彼女の声を聞いた。
「結局、日本は暗黙のルールを守ることが一番求められるからねー」
あえ先輩を無意識で欲していたあの頃、同じ進路を選んだ。
「ルールを守れたら褒めて、気持ちよく守りたくなるようにするー」
特にやりたいこともねぇし、人前に出ることも好きだし、と軽い気持ちで選んだ保育の道。
「行き着く先が結局守れー、なら守ることが当たり前の状態の方がー、楽じゃないー?」
年数を重ねるごとに、道が分かれてきているなと感じる。
「ルール作る側より守る側の方が楽だよー、何やったって給料変わらないんだからー」
組織に馴染み、媚びさえ売っているあえ。組織に馴染めず、冷めているオレ。
中学校の時、学校に、世界に、不信感を持っていた時も冷めてた。なりたい未来も無くて、夢中になれるものもたいして無くて、適応できてる奴を冷めた目で見ていた時代。
未来。
来年の今頃も、また、保育園で、保育士してんの、オレ?また、冬になると園長にこのクラス持ってねと言われて、クラスの大人と子どもと長い時間過ごす?再来年も?5年後も?10年後も??
福利厚生で選んだ勤務先だけど、限界が見えた。
かといって自分がしたいように保育できる場所があるのか?自分の思いに折り合いをつけて過ごすことが現実を受け入れるってこと?かじ先生の言うように年季増やして偉くなって発言権と裁量権を得て、精一杯自分の箱庭をやりやすいようにすること?
「あ、そうそう!軽音のみどりって覚えてる?キーボードやってた」
瞳に明かりを灯したようにテンションが上がる。
「あー、なんとなく」
正直、あえ以外興味なかったので名前も顔も記憶にもない。
「デキ婚するんだって!びっくりじゃない??!!今度結婚式するからきてー、って呼ばれてさー。結婚式超楽しみなんですけどー」
結婚を見ている彼女、仕事を見ているオレ。昔は同じ景色を見て、同じように感じていた気がしたけど、そんな時期は夕日が沈むように終わったんだろうな。
朝日が昇る頃、二人で見る景色はどんなかな。
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