<サウダージ "D10" tour style-2007.AUTUMN>

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<サウダージ "D10" tour style-2007.AUTUMN>

「今、大丈夫ー?」 「んー、ちょっとなら。何?」 「前に言ってたみどりの結婚式だけどさー、るーさんも来るかって」 「なんでオレ?」 「みどりもるーさんのこと知ってるし、結婚式のイメージつかめるだろうしって」 なんだその理由。 「やだよ」 「えー、いこーよ」 強い語気で言われてむっとする。 「悪いけどみどりさんのことよく知らねぇし。上手いこと断っておいてよ」 「えー、ていうかー、ワタシが行きたいんですけど。カップルで結婚式ー……じゃあさじゃあさ、結婚式は諦めるから、ブライダルフェアとか一緒に行きたーい!ねー、いいよねー!」 「そのフェアとかよくわかんねぇけど……結婚式は断ってな。今職場だからまた後でいいか?」 「わかった!フェア調べとくねー!」 噛み合っているのか噛み合っていないのかよくわからん会話にため息をつく。 突き進んでいく勢いのある彼女に、ため息をつく。 「すんません、戻りました」 トイレに向かう途中電話が鳴ったので遅くなった。 「おかえりー」 保育室を、これでええかなー、と見回すかじ先生。どう思う?と言われたので部屋を見る。 明日は作品展。子ども達が帰った後、保育室をセッティングする。 壁面には今まで描いた絵と制作過程の写真を貼り付けた画用紙を吊り下げ、テーブルにはうちのクラスのテーマ『てぶくろ』の絵本に沿って作った立体的な動物の作品を並べた。 中でも力作なのが、実際に入れる巨大手袋。新聞紙に模造紙を重ねて上下の土台を作り、牛乳パックの柱で固定した。 何度も何度も形やバランスに微調整したが、今は問題なく姿を保っている。 「大丈夫っスね」 「オッケー、うちあと日誌とか残務するから、みっつ4、5才応援行ってあげてくれる?」 「わかりました」 4才の白石先生はベテランだし手際が良いからそれほどだろうけど、5才のふじ先生はがっつり残ってるだろうな……と予想しながら行くとその通りだった。既におさがヘルプに来て、制作過程の写真を画用紙に貼る作業をしている。何すればいっすか?と聞くと、描いた絵と写真の画用紙を壁に吊るしてほしい、と言われたので足場になる机を取りに行く。 中央に天井から糸を垂らして浮かぶ巨大アゲハ蝶に目がいく。羽を透過セロファンの黄色と青色で作ってあるので、色が床に映し出されて幻想的だ。黒い縁取りがより非日常感を出す。 「このアゲハ蝶、すごいっすね!」 机を出しながら、ふじ先生に声をかけると、 「でしょ?自信作なんだ」 と満面の笑みで答えてくれる。 「青と黄色ってあれ?喜びと憂いの色?」 アゲハ蝶の歌詞を思い出す。 「そうそう!みっつはわかってくれると思った」 こだわりの作であることと、これに時間かけすぎて手伝ってもらうことになったんだろうな、と予想がついた。 絵画は貼り終えたので、おさが写真を貼り付けた画用紙を次から次に奪って掲示して行く。 「まだー?」 のり付けするおさを急かす。 「ってーか、みっつも貼る方に回ってさ」 「あ、じゃあ、こっちの蝶を糸でつなぐのお願いしていいかな?」 ふじ先生に、子どもが一人1つ染め紙で作った蝶を渡される。この幅でお願い、と見本の縦に5連の蝶も追加され、セロテープで糸を蝶の後ろにつけて行く。蝶、花、蝶……と蝶の間に花を入れながら、カラフルな天井飾りが出来た。黄色と青以外の色で作られた蝶を、手元でひらひらっと揺らし、外れないことを確認し、次の糸を切る。 おさがこれで全部ですか?と確認を求めると、カブトの写真がない!と部屋を出て探しに行く。 主のふじ先生がいない部屋は緊張感がゆるむ。 「♪喜びとしてのイエロー、憂いを帯びたブルーに、世の果てに似ている漆黒の羽~」 思わずアゲハ蝶のイントロを口ずさんでしまう。 「♪もっともっと輝けるわバタフライ~」 おさの返しに、なるほど倖田來未のbutterflyね、と笑い合う。 「♪少し背の高い~。なんだっけ?」 aikoのカブトムシのサビを歌いかけて、続きが出てこない。 「♪あーまーい匂いに誘われたあたしはカブトムシ~」 「それそれ!このクラス、昆虫がテーマだっけ?」 バッタが群がる草むらと、そびえ立つ大木のあちらこちらにいるカブトムシに目をやる。壁に張り巡らされた糸に捕まった紙粘土とモールの手足の蜘蛛を見て 「♪ピンクスパイダー」「♪行きたいなぁ」 「♪ピンクスパイダー」「♪翼が欲しい…」 オレのピンクスパイダーに合わせて後の歌詞を歌ってくれるおさの軽快なノリが好きだ。 「ってか、今作業しているので終わりだよね?もう無いよな?」 「さあー?」 明日が本番だし、そろそろ帰りたいのが本音だ。部屋の雰囲気は8割方出来ているし、このまま保護者や子どもを招いても問題なさそうだ。ふじ先生は飾り付けや仕上げは絶対自分でやりたいタイプだから、下準備が終われば帰れるだろう。 「そーだ、もーすぐ彼氏の誕生日なんだよねー。財布、時計……他なんかあるー?」 「知らんがな」 「みっつは彼女から何もらったー?」 「忘れた」 「思い出せ」 野太い声に笑いながら、記憶を駆け巡る。 「えー……靴、デジカメ、服とかかなー。誕生日わりと近いから一緒に買い物行って互いに欲しいもの買いあったりが多いかな」 オレたちの誕生日はちょうど曜日が毎年同じになる間隔で、去年は月曜日だったから、夏のあえの誕生日は休みを取って連休にした気がする。 「一緒に買い物か……それもいいけどサプライズしたいんだよねー」 サプライズねー、オレは欲しいものが欲しい派だけどな、と呟いているうちに、ふじ先生が帰ってきて話はフェードアウトした。 初めは誕生日プレゼント考えに考えてあえに喜んでもらうことに生きがいを感じていたのに、今年の誕生日は何したかがすぐに思い出せない。
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