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2.音のない森 (2009,September) as 凜としたい。8.ジョバイロ
今思えば、アゲハ蝶の『あーなたに逢えた それだけで良かった 愛されたいと願ってしまった』から始まって、
サウダージの『あなたは去っていくの それだけは分かっているから』で終わった8年間だったなと思う。
カラオケでいっつもこの2曲は歌われている曲ランキングに入ってる。オレみたいに、自分の恋と重ねてるやつが歌ってんのかな。
今何が流行ってんのかなってタッチパネルでランキングを検索するのはあえの習慣だった。無意識に同じ動作を辿っている自分に7年の重さを知る。
あえとよく来たカラオケで、あえが好きじゃなかった長めの髪にして、いつもあえが歌っていたからオレは歌わなかったアゲハ蝶とサウダージを歌っているオレは変わりつつある。
BGMが急にひっそりと静まり返る。
『♫僕たちはまだ森の中』
太陽のような暖かさと強さを持っていたあえ。
今、目の前で”音のない森”を緊張気味に歌っている彼女は、月だな。闇を否定せず、優しく包み込んでくれるみたいな安心感がある。同僚だったときは、細かいことにうるさくて面倒くせぇ印象だったけど、時が変えたのか、関係が変わったからか、オレが変わったのかはわからん。
昔、杏樹が「自分は月か太陽か、どっちなんだろう?」って家電で長電話していた声を隣室で聞いていたからこんなこと思うんだ。どっちでもいーやん。
なんであんなに星座とか血液型とか動物占いとか、自分に当たっているものを見つけ出そうとするんだろうな。
『♫抜け出そう』
月だろうが、太陽だろうが、オレは女に光を求めてるんだろうな、と思う。昔はずっと浴びていたかったけど、今は、時々光を浴びられたらそれで生きていける。
誰が想像する?正職員の教諭になるために全力で試験に臨んでいるオレなんて。多分、今は自分が光源。
“先生”の仕事は、思っていたよりも細かくきちんとしないといけない仕事で、責任が重くて、労働時間が長かった。
でも、思っていたよりも自分を使い、自分の意思を反映させられる仕事で、春夏秋冬の自然を感じられながら日々を過ごせることは性に合っていた。
けど、正職員になりたいのは「子供達のために!!!!」なんてものでは決してない。
こき使われない立場と、それなりの発言権、この業種にしてはマシな給料を得たいだけ。
『♫陽のあたる場所へ』
数字に表れない、ジャッジできない、正解がないということは、その場で一番発言権がある人が強いということ。
それが保育士の3年間で身をもって体感したことだ。保育士としては、補助的な立場で適当にやり過ごす気はあえとの関係と共に失せたし、リーダーをとってバリバリ働く気は起きなかった。転職した幼稚園では、自分が園児になりたいと思えるやりがいのある活動にようやく出会えた。今年度は担任を持ってないので、自分からリーダーをとりたいと設定保育を進めることを任せてもらったり、今、人生で一番保育が楽しい。仕事にやりがいを感じる。熱意を傾ける自分がいるなんて思わなかった。
音のない森から、陽のあたる場所へと、確実に抜け出した自分を見つけた。
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