44人が本棚に入れています
本棚に追加
絶望から蘇る感情
普段と何ら変わりのない仕事からの帰り道…
遠くからやたらとサイレンの音が鳴り響き、横断歩道に差し掛かった頃には、俺の目の前を消防車や救急車やらが、物凄いスピードで走り去って行った。
どっかで火事でもあったのか…と他人事のように信号待ちをしながらふと辺りを見回すと、少し先の住宅街の方から煙が立ち上っているのが見える。
自分の家とは真逆…だけどあっちは…
まさか…とは思ったものの、急に不安が込み上げてきて心臓がドクリと波打つと、信号が変わったと同時に煙が立ち上る方に走り出していた。
近付けば近づくほど、その予想が的中してるのではないかと不安が押寄せる…
そして俺は燃え盛るアパートの前で足を止め、目の前の現状に唖然とした。
「嘘だろ…」
奏汰が住んでるであろうアパートが、真っ赤な炎に包まれている。
窓からは炎が吹き上げ、屋根は崩れ落ちて既に原型は留めておらず、消防隊の人達も中に入っていけないような状態。
もしかしてあの中に奏汰がまだ…!?
そう思ったら体が勝手に動き出して、俺は野次馬の人だかりを掻き分け、周りの静止の声なんか無視して中に飛び込もうとした。
「ちょっと君!!」
「中に友達がいるかもしれないんですっ!」
「ダメです!離れてくださいっ!」
「離せ…っ!!奏汰ぁーーっっ!!」
嘘だろ…嘘だよなぁ!?
こんなの嫌だよ…っ。
俺は最悪の事を考えその場に崩れ落ちた。
涙が絶え間なく溢れ出て、息が出来なくなるくらい苦しくて、周りの人の声もあんなに煩く響き渡っているサイレンの音さえも、もう何聞こえない。
俺にとって奏汰は大事な親友で、これからもずっと側にいて、絶対に失われる事の無い存在だと思ってたのに…
俺…っこれからどうしたらいいのっ…奏汰…っ!!
「遥香…?」
あぁ奏汰…俺は幻聴でも聞いてるのか?
後ろから俺を呼ぶ奏汰の声が聞こえる…
もしかして泣きすぎて苦しくて、 息が出来なくなって俺も死んだんだろうか…
声のする方に振り返れば、ぼやけた視界の先にサンダルを履いてスエットに手を突っ込み背を丸め、突っ立ってる奏汰が見えた。
「ふぇ…っ、奏汰ぁ…っ、死んだんじゃないの…っ?」
「俺、ここにいるけど?」
「は…っ、んだよばかぁっ!!心配させやがって!!!」
「帰ってきたら燃えててさ…?最悪だよねぇ」
「燃えててさ…?じゃねぇよ!!死んだかと思っただろっ!!」
「ふはっ!勝手に殺すなよ!」
「…沙耶は!?」
「あいつは彼氏んち…まぁ不幸中の幸い…?雨漏り酷かったし、火災保険も下りるだろうからちょうど良かったわ!」
「はぁ…もぉ…っ」
「おいっ!?遥香!?大丈夫かよっ!」
地面にへたり込む俺の頭をしゃがみ込んでポンポンと撫で回し、何も無かったかのように平気な顔してニヤつく奏汰にイラつき、その手を振り払った。
だけど心底安心した自分もいたんだ…
走馬灯のように奏汰との思い出が蘇り、突然訪れた親友との別れに俺は何を思った…?
まだ一緒にいたかった…
まだまだ一緒にやりたい事があった…
お前の笑った顔、優しい声、遠くを見つめる時、伏し目がちに目を細めると目立つ長いまつ毛…
思い出すとドクンっと胸が高鳴って、忘れたかったあの日の事まで、また思い出しそうになったから…
だから俺はこれ以上考える事をやめて、一先ず涙を拭いて立ち上がり、一旦しっかりと頭を現実に切り替える事にしたんだ。
「で、お前今日どうすんの…」
「そうなんだよねぇ……あのさ、はるちゃんっ♡」
「っんだよ…ちゃんって言うなって言ってん
だろっ!」
「とりあえず一晩泊めてくんねぇ?」
「んー…、まぁ一晩くらいならいいけどぉ…」
こんな状況だから、とりあえず一晩は泊めてやるとして…
それ以上はどうか勘弁願いたいんだが、これからこいつどうするつもりなんだろうか…
最初のコメントを投稿しよう!