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小学四年の夏休み、田舎のおばあちゃんの家へ遊びに行ったとき、些細なことでお母さんに怒られて泣いていた私を縁側でおばあちゃんが慰めてくれた。
「雫、無理に泣くのを我慢しなくてもいいよ。好きなだけ泣けばいい」
「でも、ママがいつまで泣いてんのって怒るし……」
「いいのいいの。泣いたっていい。そういうときはね、涙泥棒が涙を盗んでくれるから」
「涙泥棒?」
「そう。知らぬ間にスッと涙を盗んでどこかへ行ってしまう。涙泥棒に涙を盗まれるとね、自然と泣き止んでいるんだよ」
「へー、じゃあ私のところにも来てほしいな」
「来るさ。必ず来るよ。無理して泣くのを我慢しなくても大丈夫、ほらもう泣き止んだ」
「ほんとだ、涙泥棒が来たのか」
それから私は涙を流す度に、涙泥棒のことを考えるようになった。辛いときは泣けばいい。必ずすぐに涙泥棒が来て涙を盗んでくれるから。
おばあちゃんのその話を聞いたとき、私の頭に浮かんだのは瑠偉の顔だった。
彼は涙泥棒なんじゃないのか。だから私の涙を盗んでいってくれるんじゃないのか。
いつも無愛想で、優しさのかけらもないような男の子だけど、実は悲しんでいる人を見ると放っておけない優しい人間なんだ。
「んなわけねーだろ、バカじゃねーの?」
学校からの帰り道、瑠偉に話すとそんな言葉が返ってきた。
「違うの? だって瑠偉はいつも私の涙を止めてくれるじゃん」
「知らねーよそんなの。お前が勝手に泣き止んでるだけだろ。っていうか俺急いでんだけど。もう帰っていい?」
そう言って彼は足早に自宅へと走っていく。
そうか。瑠偉は隠してるんだ。これは私だけが知っている秘密。誰にも知られちゃいけない秘密なんだ。
そう都合よく解釈して、私は納得した。
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