涙泥棒

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 瑠偉の家は私の真向かい。だからお互いの家をよく行き来することも多かった。  いや、行き来は違うか。私が行くことしかなくて、休日のお昼ご飯なんかは何度も瑠偉の家にお呼ばれすることもあった。  中学生になった頃、私はいつものようにお昼ご飯を一緒に食べようと言われて瑠偉の家へ入った。  すると飛び跳ねながら弟の瑠儀くんが出迎えてくれて、手を引っ張られるように食卓へ座らされる。 「雫ちゃん、いらっしゃい。こんなものしかないけど、うんと食べてね」  テーブルには美味しそうな五目焼きそばが置かれていて、私のお腹は分かりやすく「ぐう」と鳴った。 「お前さ、一応女子なんだからはしたない、とかないの?」 「うるさいなぁ、しょうがないじゃん鳴っちゃったんだから。っていうか、一応ってなによ?」 「ギリギリ女子じゃん。ほとんど男みてえな」 「はあ? こんな可愛らしい女の子見つけてよくそんなこと言えるよね」 「可愛らしい? どこが?」 「ほんっと頭来た」 「まあまあまあ、喧嘩はやめてさ、食べよ。冷めちゃうから」  瑠偉のママが間に入ってくれて私たちは五目焼きそばを食べる。  それはもう、苛立ちを忘れるほど美味しくて、思わず笑みが溢れてしまう。 「おばさん、これ美味しい! 醤油ベースで味もしっかりしてるし」 「それはよかった。どんどん食べてね」  瑠偉ママは嬉しそうに私たちのことを見ていた。  瑠儀くんは一口食べる度に席を立ち、飛び跳ねながらテーブルを一周する。  それを冷たくも優しい口調で注意する瑠偉。お兄ちゃんの言うことはしっかり聞くのか、言われたらすぐに席に戻る瑠儀くん。  そのやり取りは自然とみんなを笑顔にしていて、賑やかな食卓になった。
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