涙泥棒

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「お昼ご飯食べたらね、ごごはみんなで、しょっぴんぐもーるに行くんだ!」  瑠儀くんは嬉しそうにそう話す。  瑠偉のママも笑っていて、とても楽しみにしている雰囲気が伝わってくる。  おばさんは家族を一番に考えているんだ。  だからどれだけ疲れていても、家族のために出かけるんだ。  私は知っている。  瑠偉のママは毎日のように忙しく働いていて、寝る間を惜しんでお金を稼いでいることを。  工場で夜勤の仕事を終えたおばさんは、朝ごはんを作って二人の息子を送り出す。  そのあとは家事をこなして、お昼から二、三時間だけ眠るそうだ。  瑠偉と瑠儀くんが学校から帰ってくると、夕ご飯の支度をして、それが終わればまた夜勤。  深夜のファミレスでも掛け持ちをしていて、休みはひと月に一回あるかないか。  その貴重な休みは、息子二人のために使うのだ。  今日は私にも気を遣ってくれて、お昼ご飯までご馳走になって。本当は疲れて眠りたいはずなのに。  食事を終えると、兄弟二人はリビングでアニメを見出した。おばさんは食器を持って台所へ立つ。  なにか少しでもお礼がしたくて、私は瑠偉のママの隣に立った。 「手伝います」 「え、いいのよ。雫ちゃんは座ってて」 「いえ、手伝わせてください」  私が腕まくりをしたのを見て、「じゃあお皿拭いてもらおうかな」と言ってくれた。 「雫ちゃん、彼氏できた?」  水の音でかき消されそうな声でいきなりそう聞かれた。 「え? な、なんですか」 「ふふふ、ごめんね。なんか気になっちゃって。で、どう?」 「いや、いませんよ」 「えー、そうなの? 雫ちゃん可愛いからさ、モテるんじゃないかなって思って」 「モテませんよ私は」 「うそだぁ、そんな謙遜しなくても。じゃあ、瑠偉は?」 「瑠偉はモテるかも」  あいつは顔だけはいい。小学生の頃から噂にはなっていたけど、中学に上がると周りの女子たちの羨望の眼差しはひしひしと感じていた。 「そうなんだ、へー。瑠偉ってさ、ほんと顔だけはいいよね。顔だけは」 「そうなんです、顔だけは」  あははは、と笑い合っていると、「え、何笑ってんの、気持ちわりぃ」とリビングから声が聞こえてくる。 「なんでもなーい。女子トークだから入ってこないでー」  瑠偉ママがそう言うと、「気持ち悪っ」と答えて再びアニメに視線を送る。隣には弟。
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