涙泥棒

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◇  高校生にもなると、恋人の一人や二人ぐらいできるようになって。  私も周りに流されるように、彼氏ができた。同じクラスの男子。カッコいいし、面白いし。一緒にいて楽しい。  でも、たった半年で振られた。  っていうか、浮気された。  初めての失恋で、悲しくて悲しくて。  私は家の近所にある公園のベンチで、学校帰り泣いていた。高校生にもなってみっともない、と言われてもいい。  たぶん、心の中で瑠偉に慰めてもらいたかったんだと思う。瑠偉に涙を盗んでほしかった。  案の定、彼は自転車で通りかかったとき私を見つけた。 「お前さ、高校生にもなって何泣いてんだよ。バカじゃねーの?」  瑠偉は相変わらずで、別の高校へ通ってはいるけど、性格は子どもの頃から何も変わっていない。  愛想がなくて、ぶっきらぼうで、口が悪い。久しぶりに会ってやっぱり思うのは、ムカつくって感情だ。 「うるさいな、ほっといてよ」  思っていることとは裏腹な言葉が出てしまう。 「まあ、お前がそうしたいならそうするけど」  そう言って目の前を通って帰ろうとする彼の裾を持って、「もう」と言った。 「は? なんだよ、意味わかんねー。どうしたいんだよ?」 「……盗んでよ。前みたいに」 「盗む? なにを?」 「涙泥棒。瑠偉は涙泥棒でしょ」 「知らねーよ、そんなの。訳のわかんねーことを。いつまで言ってんだよそんなことさ。バカじゃねーの」  荒々しく私の頭を撫でて、最後におでこを指で押された。 「ちょっと」 「泣いてんじゃねーよ、バーカ」  彼はそのままペダルを漕いで行ってしまう。  いつの間にか涙は消えていて。  こういう慰め方を期待していたんじゃないのに。  ムカつく感情がまだ私の中にはあって、悔しさが残る。  でも、結論として涙は止まっていた。  それがまた悔しくて。  瑠偉は中学を卒業したら、進学もせずに働くと言っていた。少しでも早く母親を楽にさせたいと思っていた。だけどおばさんが、なんとか高校だけは、と説得して地元の公立高校へ通っている。  彼は相変わらず優しい。  弟の面倒を見て、母親の手助けをして。  反抗期の私とは正反対のような、家族想いのいい息子。  私もいつか、瑠偉みたいに家族のことを第一に考えられるようになるのかな。  瑠偉は私のことなんてただの幼なじみとしか思っていない。  私はどうなんだろう。  あいつのことは、ムカつくけど嫌いじゃない。ってことは、好きなのかな。  よくわからない自分の感情に蓋をするように、私はベンチから立ち上がって家へと向かった。もうすっかり涙は止まっていて、自分がなんで泣いていたのかさえも忘れてしまった。  腹が立つけど、感謝してるよ。涙泥棒。
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