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火葬まではある程度時間がかかるとのことで、施設内にある休憩室で皆はそれぞれ集まって雑談を交わす。
私は瑠偉を呼び出して、屋上へと連れ出した。
三階建ての建物。見晴らしはそれほどよくはないが、どんよりとした気分を変えるにはいい場所だと思った。
他に人はいない。
ただ、この日の天気はあいにくの空模様。
空は曇天で、今にも雨が降り出しそう。
二人掛けのベンチへ向かうと、瑠偉がようやく声を発した。
「なんだよ」
「いいから」
秋の空は夕方にもなると空気が冷たい。
屋上に流れる風が体温を奪う。
隣に座る瑠偉は足を広げたまま、こちらを見ることはない。意識的に私を見ないようにしている。
「ねえ」
「なに?」
「あんたさ」
少しの間が空いた。口に出すのをためらった自分がいる。瑠偉のことがわかるから。彼がどんな気持ちでいるのかがわかるから。
それでも、言わなきゃ意味がない。
「なんだよ、黙んなよ」
「……なんで泣かないの?」
「は? なんだそれ」
そっぽを向いていた瑠偉がこちらに向き直る。私はその顔を見つめながら続ける。
「泣けばいいじゃん。ずっとでしょ。病院でも、葬儀でも、火葬場に来てもそう、ずっと我慢してる」
「……我慢なんてしてねーし。何言ってんの、バカじゃねーの」
「してるじゃん。涙を見せないように、必死に耐えてさ。そっちの方がバカだよ」
「……うるせえなぁ」
彼はもう一度視線を外し、顔を背ける。
「誰よりもさ、一番涙を流してほしいって思ってるよ、おばさんが」
その言葉を聞いた瑠偉は、両肘を膝の上に置いて項垂れるように視線を落とした。小刻みに体が震える。
地面に雫が一つ、二つ、三つ……。
私が彼の左肩を触ると、それを契機にするように嗚咽を漏らした。
瑠偉は私の胸に抱きついて、激しく泣く。
それは私が初めて見た瑠偉の涙だった。
彼は涙泥棒だと私は思っている。私や瑠儀くんから盗んだ涙、それらをすべて返すように瑠偉は泣き続けた。
「……瑠儀がさ、言わねーんだよ。お袋が家にいないのにさ、何も。気づいてないようなフリをしてさ。それが余計に辛くて……」
言葉を紡ぐと、涙の量は増えていった。
瑠偉が泣いている。
ずっと泣かなかった瑠偉が、泣いている。
でも大丈夫。この涙は、伝わってると思うよ。おばさんに、きっと。
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