怪盗ラパン

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「あなた、大丈夫?」  彼はゆっくりと顔を上げると、 「やっぱり警察に相談しよう」  口早に言って携帯電話に手を伸ばす。 「だめよ。警察はあてにならないって言ったでしょ」  妻はその手を引いて自分のほうを向かせた。 「ねぇ。なにがあったの?事の次第では通報してもいいけど、その前にちゃんと説明して」  その眼差しに、彼は観念したようにうなだれた。 「すまん。俺、浮気してるんだ。今は、彼女が一番大切で……。だから彼女のことを守ろうと思って……」  夫の頭頂部を冷ややかに睨みながら、妻は心の中でほくそえんだ。SNSで見た通りだった。お金をかけず、簡単に夫の隠し事を暴くにはこれが一番だって。  そう思いつつ彼女はテーブルの上に視線を移した。そこには怪盗ラパンの予告状があった。不器用な自分にしてはよくできた贋作だ。    全国同時多発的に偽物の怪盗ラパンが現れる。これもまたこの泥棒の特徴のひとつだった。
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