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ふたたび……
先ずは、かの国に潜ませた密偵を総動員させると、地下深くに潜らせ、井戸という井戸を、音響が通じるように工作させ、繋げさせると、王宮にて施術後の美容師が、案の定、日々、さい悩む様子を見せている、という監視結果を決定打に、美容師の精神科のかかりつけ医を暗殺、密偵に変装させては、その日を待ったのだ。
いくら自らの国より大国とはいえ、人心さえ王から離れれば、あとのことはどうとでも容易くなる、というのが隣国の王の読みだった。だが、これはどういうわけか。
「……下がってよい」
「はっ!」
心なしか力を無くした声が御簾から響くと、密偵は、王宮を去る。
(…………)
御簾の向こう側の、ガランとした自らの宮殿を、王は呆然とした心持ちで見回していたが、つい、本能の習性で彼は毛づくろいをはじめた。そう、隣国の王は、猫だった。
彼がいつから猫だったのか。またはもとから猫だったのか。それは此処では語るまい。ただ、姿に比べては不釣り合いなほどに大きな玉座の上にちょこんと座ると、これまで猫の額ほどしかない頭に、時に湯気をたたせながら、この小国を維持するために、様々な政策、謀略を打ち出してきたことだけは事実である。
また、内政においても、外交においても、多大な影響があるとわかっていたからこそ、今日、この日まで彼が徹底していたのが、どの人間の前にも絶対に姿を現さない、御簾ごしの政治であったのだ。
ただ、この日は、王の心を揺るがす大事件がおきたといっていいだろう。
(…………)
やがて、毛づくろいをやめた猫の王は、猫背のままに、自らの頭にある耳をクルクルと動かしながら、もう一度、誰もいない周囲を見回す。ユラユラと頭をゆらしながら、その姿はとても不安げだ。
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