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①
僕は物をすぐ無くす。
ハンカチ、ボールペン、イヤホン…細かい物をちょこちょこ無くす。だから、できるだけ安くて、カッコ良くない物で、間に合せで…って、考えて買うことにしてる。結果、シンプルでチャチーものが僕の机にはよく転がっている。自宅でも学校でも。
高2の僕のペンケースの中は、事務用品で揃えたような感じ。細長い赤のボールペンにスケルトンといえば聞こえがいいなるべく少ない材料で作られたシャープペンシル。
「一ノ瀬の文房具、おっさんくさ。」
隣の席の片山くんのペンケースにはちょっと高い文房具が入っている。振って芯の出てくるシャープペンシルに、回して2色使えるボールペン。
「そんなんじゃ、気分下がるよ。」
「別に文房具が成績を上げてくれるわけじゃないし。」
片山くんは、まあまあ成績が良いが、それは単純に頭が良いからだと思う。
片山くんは、2年普通科の人気者。女子も男子も背が高くてかっこいい片山くんが好き。話しかけやすくて優しいらしい。
でも僕は片山くんが嫌いだ。僕をちょっとしたことでからかって、ちょっかいを出してくる。僕がコレで良いって思うものを馬鹿にしてくる。
周りの音を遮断したくてイヤホンを耳に入れた。兄から貰った古いMP3プレイヤーから音楽を聴く。兄の趣味の音楽だ。
「イヤホン、おっさんくさ。」
片山くんが、僕のイヤホンを片方抜いてわざわざ言ってくる。その顔が、すんってしていて、感情が掴めないから余計にムカつく。
「なんなの?」
僕は、明らかにムッとした顔をした。
「持ち物、全部おっさんくさいのな。」
ほんと、ムカつく。嫌い。
「すぐ無くすから良いんだよ。ボールペンなんて使い切ったことないし、消しゴムだって、1回消しただけで無くなった。シャーペンも移動教室とかあると無くなるし。この前無くしたのは入学祝いで従兄弟からもらったシャーペンでちょっと良いやつだった。気に入ってたから、ショックだったし。それに…イヤホンなんてiPodごと無くしたんだ。だから、カッコいいのいらないんだよ。」
一気に言ってやった。
片山くんは、少し驚いた様子を見せたけど、
「そんなん、お前の不注意じゃん。」
と、正論を投げつけてきた。豪速球のストレート。ズバーンって、僕のミットに投げ込んできた。僕は返す言葉がなくて、顔が熱くなってイヤホンを耳に突っ込んだ。
こんな時に聞こえる音楽が、サンボマスターの【ミラクルをキミとおこしたいんです】
「一緒に買いに行かね?」
片山くんがまた、僕のイヤホンを外して声をかけてきた。
「え?」
「せめて、イヤホンだけでも無くさない努力しろよって話。」
片耳からサンボマスター、片耳から片山くんの説教。
「余計なお世話!」
「怒ってんの?」
僕だって本当はもっといいイヤホンが欲しい。こんなおじさんがラジオ聞いてるような800円のイヤホンじゃなくて。ワイヤレスで音が良くて…でも無くしたらすごくがっかりするだろうし。
「ミラクルをキミとおこしたいんです。」
「ええ!?」
「…その、音漏れしてるやつ。前から気になってたんだけど、そのイヤホン音漏れすげえから。古い曲ばっか聴いてるよな、一ノ瀬って。サンボマスターにハイローズ、それにエレカシ。……懐メロ?好きなの?」
「いや、コレは兄の古い……。」
MP3プレイヤーを見せた。
「カッケー!ちっちゃ。」
「え?」
グレーのシンプルなMP3プレイヤーを見ながら片山くんが目を輝かせた。
「それは無くさないの?」
「兄のだから…多分無くしたら怒られる。」
「そういうプレッシャーが欲しいわけか。」
片山くんが少し考えて
「なあ、俺とお揃いにしない?」
彼女にするような提案をしてきた。
「え?なんで?」
「無くしたら俺が怒ってやるから。色違いとか良いよな。」
「いやそれが、なんで?」
「隣の席だから」
理由がよくわからない。
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