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ハロウィーンの夜。
男は仕事帰りに街外れの教会の前を歩いていた。
満月にシルエットを浮かべるその教会は、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
併設された墓地と、庭の枯れ木、月光が透けるステンドグラスは煤けて、屋根のてっぺんにある十字架は傾いているように見える。
何の変哲もないこの街の一角に、こんな場所があったのかと思う。
仮装してはしゃぐ子どもたちも、そのいかにもという雰囲気の漂う場所に近寄ろうとはしない。
すれ違うカボチャ頭の少年は、不思議そうに男を見ていた。
魔物が巣食う廃墟のように見えるその教会の窓の一つに、薄く明かりが灯るのに気付いて男は近寄って行った。
後で思えば、何故、行ってみようと思ったのかはよくわからない。
地元の人間には忘れられた風景の一部となっていた、その教会が目に留まったのは、その男、来馬崎(くるまざき)笙一がこの街に来てまだ三日目だったからだろうか。
それとも、来馬崎はそもそも、教会に引き寄せられてこの街に来たのだろうか。
「いらっしゃい…マリアの占いの館へようこそ…」
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