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風がマリアの長い髪を凪いでいく。
「ん?」
「現実ですよ、来馬崎さん…だから…」
「だから?」
「もう、ここには来ない方がいいかなって…思います」
マリアは優しく笑った。
「あ…何か、気に障ることでも?…っていうか、そうですよね、いきなり来て、ストーカーみたいでしたね」
マリアは首を振る。
「そんなこと無いですよ、来馬崎さんはいい方だと思います」
そう言って微笑んだ後、一瞬マリアの目つきが険しくなったように感じた。
「いい人だけど、あなたには嘘の匂いがするの」
別人のように鋭い、突き刺すような口調だった。
「あっ、ごめんなさい、わたしまだ収穫の途中でしたので」
パッと表情が和らぎ、いつものマリアになっていた。
畑の方へ去り際、ぼそっと呟く。
「そのあなたを、守りたければ…」
胸がざわつき、色々な言葉が頭の中を駆け巡ったが、若い女性が拒絶を口にしている以上早々に立ち去るしかないだろう。
ふと、さっき一瞬見えた気がしたものを確かめようとマリアの顔を見たが、遠くてよくわからなかった。
風が吹いてマリアの前髪が揺れたとき、額に傷のようなものがあった気がしたのだ。
先日のメイクの残りかもしれない。
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