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三日月に浮かぶ教会のシルエットに、ポツンと明かりが灯る。
よく手入れされた墓地を抜け、庭を歩く。
菜園の大根は大方収穫されたようだ。
微かにおでんの香りが漂っている。
古ぼけた重厚な扉の前に立つと、今日は「welcome」の貼り紙があった。
営業時間に、占いに関することで立ち入るのだ、少なくとも不法侵入にはなるまい。
軋む扉を開けて中に入ると、しんとした礼拝堂の奥に、明かりの灯る懺悔の部屋がある。
マリアは、じっとこちらを見ていた。
来るのがわかっていたように。
近寄っていくと、マリアが先に口を開いた。
「来てしまったんですね、来馬崎さん…」
ふっと寂しそうな顔をして、急に目つきが鋭くなる。
「棘を抜いてほしいのね?あなたの嘘が、棘の痛みに耐えられないのよ」
何故だかわからないが、胸を抉られるような気持ちになる。
「あなた、仕事は何をしているの?」
何を言ってるんだ?私の仕事は…仕事は…仕事は…?
「座りなさい」
マリアの言葉に、急速に不安をかき立てられた来馬崎は、震えながら椅子に座った。
「もう一度聞いてあげる、あなた、仕事は何をしているの?」
「しっ…仕事は…仕事は会社に行って…!」
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