天国泥棒

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 弟子たちが、ヨシュアを裏切った。  予想していた結末だった。人間ってのは、本当にくだらない。どいつもこいつも馬鹿だ。ヨシュアを取り囲む兵士たちを全員殺してやりたいが、また同じことを繰り返すだけだ。  俺は、ヨシュアを自由にしてやりたかった。 「……私は嫌です、こんなこと」  俺の提案を聞いて、ヨシュアは泣いた。こうするのが一番いいんだと何度言っても、頷いてくれなかった。  だから、仕方なく、ヨシュアを少しのあいだ眠らせることにした。目覚めたらあいつはユダの身体の中だ。これが俺の、最期の罪。  弟子たちがヨシュアを裏切ると決めたとき、ユダはヨシュアを救うために俺の話を聞き入れた。不死の身体にはヨシュアの魂が宿り、ユダは守護霊としてその隣に寄り添う存在となる。  俺の代わりに。 「これより、"悪霊憑き"の処刑を始める!!」  男が声高らかに叫んだ。聖人が磔にされた大広場には、馬鹿な民衆どもが星の数ほど集まって歓声を上げている。 「この男は悪しき力によって民衆を誘惑し、国家を混乱に陥れた人類の敵である。その魂は地獄に堕ち、この男に憑いた忌まわしき悪霊も消え去るであろう。さぁ、十字架に火を灯せ!」  ますます激しくなる歓声の中で、俺は目を閉じた。  ──火が怖いのは、前もこうやって殺されたからか。  俺は人間を恨み、神様を恨み、世界を恨んで悪霊になったのだ、きっと。  そうしてヨシュアと出逢ってしまった。  全身が焼ける激痛にぐらぐらと揺れる視界に、金色の光がひとすじ差した。  あれは。  ……天国だ。  いいのか、俺、天国なんかに行っちまって。  罪深い悪霊なのに。  薄れゆく意識の中で、俺は笑った。  ──これじゃあまるで、天国泥棒だな。
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