恋泥棒と苦いキャンディ

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 槇家は代々魔法使いの家系だ。  人間の心を魔力に変えて魔法を行使する。  喜び、悲しみ、怒り、驚き……何でもいいが、その起伏が激しいほど、魔力はたくさん摂取できる。  そんな人間の数ある感情のうち、僕が目をつけたのが「恋」だった。  恋とは激しく、熱く、そして甘い。簡単に人を落ち込ませたかと思えば、あっさり天にも昇る気分にさせる。  おまけに皆、隠そうとしない。隠しているようでも、聞いて欲しくて仕方ないのだ。 「槇のケーキを食べて恋が叶った者が何人もいる」  そんな噂が少し流れただけで、すぐに人が集まった。恋の内緒話を聞きながらお手製のケーキを食べて貰う。そうすると、彼らの胸に秘めた恋心があふれ出す。それは積極性に変わったり、あるいは本人の魅力に変わったり、様々変化を見せる。  そしてそんな彼らが、最後に恋心のたっぷり詰まったキャンディをお礼として差し出す。  今のところ、百発百中。恋のお役に立てて、僕自身の魔力もたっぷり貰えて、いいことずくめだ。 「大抵の人に必要なのは、あと一押しの勇気だけなんだよなぁ」  今日も豊作(・・)だったキャンディを食べながら、そんなことを思う。  と、その時、視線を感じた。教室の入り口近く。黙って、僕がキャンディを頬張る様子を見つめている女子がいた。 「……何か用?」  声をかけても、反応がない。もしやお客さん(・・・・)だったか。 「ごめん。今日の分はもう売り切れちゃったんだけど……あ、このキャンディはダメだからね?」  まさかと思って慌ててキャンディを鞄にしまうも、女子は首を横に振った。じゃあ、何がしたいんだ?  首を傾げていると、女子はおずおずと近づいてきて、何やら囁いた。 「……さい」 「何て?」  勇気を振り絞ったのはわかるが、それでも小さすぎる。聞き返すと、少女は今度は、思い切って息を吸い込んだ。 「け、ケーキの! 作り方を! 教えて下さい!」
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