恋泥棒と苦いキャンディ

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 それから一週間、更科さんが来ることはなかった。あの腕前のまま、今日の調理実習を迎えてしまったのだろうか。  心配する資格なんてないけれども、心配していた。 「なぁ槇、最近ずっとショートケーキだったけど、なんで?」 「別に。そんな気分だったから」 「ふ~ん、今日の実習のためのお手本作ってるんじゃないかって噂になってるぞ」  さすが女子は聡いな……。そんなつもりはなかったが、ついついショートケーキばかり作り続けてしまったのだが……まさか女子達のお手本にされていたとは。  でも、だったら更科さんもお手本にしてくれただろうか。 「お前のケーキって、そこらの店のやつより美味いもんなぁ。実習のケーキもすごいもの出来るんじゃね?」 「……だったら今日は、カノジョさんから貰うから、僕の作ったのは要らないな」 「うん、カノジョのがあれば十分」  きっぱり言いやがった……。  カノジョの分と、最低でももう一人分、貰うんだよ。そう思っていた時、教室の入り口に一人の女子が現れた。 「弘也!」 「おう!」  三角のカノジョさんだ。手には綺麗にラッピングされた箱を持っている。  照れながらちょこちょこ歩いてきて、三角に向けて箱を開いた。可愛らしいショートケーキが二つ、並んでいた。 「お! 綺麗じゃん! 美味そう!」 「えへへ……食べてみて」  三角は案の定、美味いと連呼していた。微笑ましいやりとりだが、内心ハラハラしていた。ちらりと周囲を確認したが、彼女の姿はない。 (さすがにカノジョさんがいる時には渡しに来ないよな) 「これ美味いじゃん! 練習した?」  教室中で一番大きな声で三角は言った。カノジョさんが恥ずかしそうに答えている。 「同じ班の子がすっごく上手で……その子のおかげだよ」 「へぇ~凄いな。店のやつより美味いんじゃね?」 「うん、更科さんて子。すっごく手際良くて、言う通りにしてたらこんなに美味しくなったの」 「……更科さん?」  僕は、思わずケーキの箱を凝視してしまった。慌てて三角が箱を隠す。 「ダメだぞ。全部俺のだ」 「……ごめん」  僕は、せめて視界に納めようと思ったのだった。更科さんが努力して、こんなにも称賛を浴びるほどに上達したケーキの姿を。  だけどそれは、適わないのだ。僕が突き放したんだから。
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