恋泥棒と苦いキャンディ

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 僕の名は「(まき) 明日夢(あすむ)」。健全な高校三年生だ。  だというのに、僕は皆からこう呼ばれている。 「恋泥棒」と。  理由は色々あるけれど、大きくまとめると……僕が恋を操っているから、だろうか。 「槇くんのケーキのおかげで上手くいったよ! これお礼のキャンディ」 「槇のおかげで、無事に付き合えることになったよ。これ、お礼な」 「槇さん、ケーキのおかげで彼と仲直りできました! お礼のキャンディはここに……!」  今日も今日とて、大勢が僕のケーキを求めて、キャンディ片手にやってくる。 「ありがとう。パティスリーマキは、今日も開店しますよ」  冗談めかして言う僕に、群がるように集まる老若男女。先生も時折いる。  僕お手製のケーキを切り分ける。すると皆、先を争うように食べ出す。味わっている者、早食い競争のような者、様々だ。  だけど皆に共通していることがある。それは――僕のケーキを求めているのは、皆、恋をしているということ。相手は僕だったり、そうじゃなかったり。  そして食べ終わると、キャンディを一つ置いていく。  どうしてそんなことをするのか――不思議だろう。だけどそれは、このキャンディを食べてみればわかる。  僕は早速、男女揃ってもじもじしながらやって来て食べていた人のキャンディを食べた。今までも何度か一人で来ていたけど、ついにお相手を連れてきた人だ。 ――甘い。そして少ししょっぱい。  これまで抱いていた焦りや、彼女に近づく人への嫉妬、だけどようやく自分を見てくれたことに対する極上の喜び。それらがすべて詰まった味だ。後でおめでとうと言っておかないと。  誰に隠していても、僕にだけはその恋心が読めるのだ。  キャンディとケーキ、それだけでこの学校皆の恋心を暴いてしまう僕についたあだ名、それが「恋泥棒」だった。  ではどうして、僕のケーキを食べた人が恋を成就させ、そしてこんなにも恋心を詰め込んだキャンディを置いていくのか。  その理由は、僕が魔法使いだからだ。
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