fight.7

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 何だかんだ言いながらも、二人で夕飯を二十分ほどで作り終え、目の前のカウンターテーブルに並べていく。  新しいシステムキッチンは、ついこの前まで使っていた小さな二口(ふたくち)コンロどころか、三口もある広々したもので、グリルだって、魚を焼く以外にも使えそうだった。  最新式のそれに少しだけ感動しながら、あたしは、肉じゃがをお皿に盛りつけようとして止まる。  ――あれ。 「あの」 「美里」 「えっと、あ、あ……さひ、さん、どれくらい盛れば……」 「それくらい自分でやる」 「――え」  当然のように言われ、あたしは、お玉を持ったまま目を丸くした。 「――あのな、自分が食べるものくらい、自分で用意するぞ」 「あ、そ、そう……なんですね……」  すると、後ろから右手を取られる。 「え」 「――まあ、良い。このくらいで大丈夫だ」  そう言いながら、あたしの手を、二人羽織のように動かすと、お皿に肉じゃがを少しだけ山を作るくらいに盛り付けた。 「ちょっ……!」 「感覚で盛ってるからな。覚えておけ」  だからって、こんな至近距離で……!  後ろからの温もりとか、耳に届く声の近さとか――とにかく、心臓が持たない! 「わ、わかったからっ!離れてよっ‼」  あたしが、叫ぶように言うと、一瞬、掴んでいた部長の手が止まる。  そして、わかった、と、離れてくれた。  その声音が、ほんの少しだけさみしそうに聞こえたのは――気のせいか。  けれど、次にはすぐに自分で作った、油揚げのネギみそ焼きを皿に移して、運んで行った。  ――気のせい、だよね。  ……傷つけたわけじゃ――ない、よね。  別に、嫌とかじゃないんだけれど――とにかく、何もかも急すぎてキャパオーバーなのだ。  昨日まで、住むところすら無くて、舞子の世話になっていたというのに――。 「美里」 「え」  不意に呼ばれ顔を上げる。  すると、部長は、冷蔵庫から五百ミリの缶ビールを取り出すところだった。  あたしは、当然のようなその行動に、ポカンとしてしまう。 「……何だ」 「え、いえ、晩酌するタイプには見えなかったもので……」  その童顔からか、一瞬、アルコール類とつながらなくて、思わずこぼしてしまった。  そして、次はアル中、とか、よぎってしまうが、あっさりと否定された。 「普通に飲むがな。――まあ、安心しろ。アル中になるほどじゃあない。良くても二、三日に一回。このくらいで済ませている」  そう言いながら、持っていた缶を軽く振る。 「……そうですか」  でも、完全に安心できないのは――経験からだ。 「お前も飲むか」 「え」 「――飲んで忘れろ、という訳じゃないが、少しは気晴らしになる。まあ、飲めないとか、好きじゃないなら強制はしないが」 「――……いえ。……でも、今日は大丈夫です」  あたしは、おひつで温めたご飯を盛ると、茶碗を部長に手渡した。 「このくらいで良いですか」 「あ、ああ」  少々面食らったように、部長はうなづく。  その反応に、あたしは眉を寄せた。 「ビールは主食じゃありませんからね」 「――……わかってる」  どうやら、図星のようだ。  自分の分も盛ると、二人でカウンターテーブルで向かい合って座った。  こうしていると――まるで、家族になったようで――思わず視線が下がる。  ……このまま生活していったら――もしかしたら、部長だって、今までの彼氏達と同じように――……。 そんな思いがよぎってしまい、あたしは軽く首を振った。
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