(01)困った同級生

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(01)困った同級生

 キラキラのスクールカースト最上位にいる、一軍男子の酒見藍人(さかみあいと)くん。同じ高校の同じクラスメイトだけど、喋る機会もなかった格好いい男の子が、今、わたしの伯母が経営するカフェの店内の、目の前の席で唸っている。 「お花見、海岸を歩く、映画館……、うーん……」  かなり困っている様子だが、わたしも困っている。いきなりデート案を出せと言われたって、デートなんかしたことがないし。 「お花見は季節外れだし、海も季節が……。映画は何観ればいいかだな。でも二時間も座ってるのって、時間稼ぎだと思われないかなぁ……。あああ、どうすればいいんだー……」  わたしは目の前のアイスカフェラテのストローに口を付けた。そろそろ温かい飲み物が恋しくなる季節だけれど、時間稼ぎをしたいのなら、断然容量の多いアイスの方が良い。 「そんなに悩むなら、デートなんて断ればいいのに」  わたしは藍人くんに思わず零した。贅沢な悩みにも、それなりに悩むことを知っているわたしの言葉は、ウニの棘みたいに藍人くんに刺さるのかもしれない。何しろ、わたしのあだ名は「二軍さん」なのだから。 「そんなことしたら何て言われるか……どんな罰ゲームよりも、そっちが怖いよ……考えただけで恐ろしい……っ」  それ、もうデートじゃなくて罰ゲームじゃん。と思ったが、とりあえず黙っておいた。気持ちはわかるし。  わたしこと佐々井花奈(ささいはな)と比べると、藍人くんはやっぱりキラキラだ。成績優秀、運動神経抜群、目が綺麗。目尻が少し垂れていて、タヌキっぽいところが愛嬌があっていい。意外と怖がりなところも、点数高いかな。ギャップ萌え的な。  でも、こんなところを学校の誰かに見られたら、と考えると、それだけでゾッとした。この喫茶店は、駅からもスクールゾーンからも外れているから、まず大丈夫だとは思うけれど。  にしても一軍さんは大変だな、とわたしは無責任に思った。  何しろ、藍人くんは、今週末に一軍でも飛び切り派手な女の子とデート予定なのだ。失敗が許されないミッションだというので、わたしが相談に乗っているのだけれど。  どうしてパッとしない「二軍さん」なんてあだ名のわたしが、藍人くんの相談相手になったかというと、およそ半時前に遡る。
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