十月十五日

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 琴音とは口をきかなくなり、だんだん言葉の暴力が増え、殴る蹴るの暴力も増え。ある日ついに母親が泣きながら琴音を殴り、お前のせいで、お前が居なければこんな事にはならなかったと叫んだ。母は心が壊れ精神がもたなくなっていた。父親は琴音を施設に出し、二度と会いに来ることはなかった。最後の会話がいつだったか、何だったかさえ覚えていない。  児童養護施設は十五歳までしかいることができない。そこを出たら一人で生きていかなければならなかった。施設に預けたなど周囲に知られたくなかったのか、だいぶ遠い地方の施設に行ったため琴音の過去を知る者はいない。  両親にさえ見限られ、最悪な家庭環境と人間のむき出しの感情をぶつけられてきた琴音は他人を信用しない。夜の仕事も金の為と割り切っていた。店を辞める時、投資を教えてくれた客から個人の連絡先をもらったがお見送りをした後ロッカーで破いて捨てた。どうせ体を要求されるに決まっている。  店を辞めて半年。店で貯めた給料でパソコンなどを買いそろえ、少ない元本で始めた投資は緩やかに上昇をしている。世の中の投資家のように何十万、何百万の金の動きとは程遠いものだが、これが今の琴音には丁度いい。  ふう、と一息ついて背伸びをした。ずっと座っていては腰に悪いし姿勢も悪くなる。一時間に一回はストレッチをすると決めている。適度に筋トレをして、体力と健康維持には気を付けていた。何故なら店に来ていた客は皆太っていたり猫背だったり、見ていてだらしのない男ばかりだった。太っているなら痩せればいいし猫背は姿勢を正しくすればいいだけだ。笑顔で酒を注ぎながらこういう大人には絶対なりたくないなと冷めた気持ちで客を観察していた。  太ももや尻の筋肉をほぐそうと、まず体育座りの形になり片方の足を延ばそうとした時だった。 「十月二十一日だよ、わすれないで」  突然そんな言葉が聞こえた。 「……え?」  思わず声が出た。誰の声だったか、何を言っているのかまったくわからない。ストレッチをやめて周囲を見渡してしまう。誰かがいるわけないとわかっていてもやらずにはいられなかった。本当に、今誰かと会話をしているかのように鮮明な声だった。  誰かがしゃべったわけではない。何かを突然思い出したのだ。体育座りをして、なるべく小さく体を縮こませて、息を殺した。それと同じ状況が以前あったような気がする。いつだったか。
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