十月十六日

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 しかし、寝ようとしても先ほどの夢が目の前をちらついてしまう。十年前のあの事件、今度は夢にまで見てしまった。 「もう……」  思わずつぶやいて結局起きた。この状態では寝るのは無理だ。情けない話だが、少し怖いので眠れそうにない。  何なのだろうか、昨日から急に見始めた白昼夢のようなものといい夢といい、思い出したくもないものを目の前につきつけてくるのは。 「約束……?」  ぼんやりと宙を見つめながらそんなことを声に出していた。なるべく考えないようにしてきたが、ここまで来ると考えないというのは無理になって来る。しかしいくら考えても心当たりがない。何の約束だったのか、誰とかわした約束なのかもわからなかった。そもそも事件直後、意識が回復してから事件の事を全く覚えていなかったのだから今思い出せというのも無理な話だ。  最悪の目覚めとなってしまった事に暗い気分になりながら、パソコンの電源を入れた。だいぶ早いが株価と取引価格を見ておいてもいい。今は余計な事を考えたくなかった。  今日は夜に用事があるので昼に一度仮眠を取らなければ、と予定を確認するためにカレンダーを見る。すると嫌でも目に入ってしまう「二十一日」の文字。  十月二十一日に一体何があるというのか。皆死んでしまったのだから、約束を守ることなどできない。しかしはっと気づいた。あの夢では一人影が残っていた。誰か一人生きている? しかし見つかった生存者は琴音だけだ。自分の視点でその影を見ていたのだから、残った影は琴音ではない。誰なのだろうか、アレは。  今日は以前勤めていた店に一日だけヘルプのバイトだ。関わる気はなかったが、当時店のママには給料を前借させてもらったり日用品をもらったり世話になった。辞めた子に連絡しないようにしてるけど今回本当にピンチで、と頼まれたら断れない。  何故今ヘルプが来たかと言うとどうも女の子同士でいざこざがあったようで、一気に五人辞めてしまったらしい。もめ事の渦中にいたのは店で一番人気の女の子で、彼女の誕生パーティを台無しにするため突然辞めたようだ。誕生パーティは一大イベントだ、いつもの倍以上の客が来る。主役の女の子が別のテーブルにいる間、まだ来ないのかと急かしてくる客の相手を他の女の子が相手をするのだ。琴音も現役時代に経験済みだ、一から教えなくて済む琴音にママから連絡がきたのだ。  十六時、店に入って軽く説明を受ける。当時から店にいた子は久しぶり、と声をかけてくれて新人の子はぺこりと会釈をしてきた。主役の女の子ともそこそこ話をする仲だったので笑顔で応対する。あの時と違ってお金ないんだ、こんなのでごめんねとプレゼントを渡せば満面の笑顔で喜んでくれた。嫌味がない、可愛い子だと思う。辞めた五人はどうせ嫉妬ややっかみだろう。着替えて化粧をし、スタッフに混ざってパーティの準備を手伝いながら懐かしい忙しさに少しだけ楽しさがこみあげる。朝が嫌な気分だっただけに少しやる気が出てきた。十八時、いよいよ店が開く。
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